『きみと一緒に通いたい』第2巻(うおやま)「ワガママだと思いますか? 俺が一番 そう思ってました」

目次

先にまとめから~人って変わる~

「あの人、前と少し違うな」
「最近の自分、ちょっと変わったかも」
 そんな風に思ったこと、ありますか? 人生が変わるとか見違えたとか、そんな大きな変化じゃないけど、なんとなく「あ、いいな」と思える変化。

『きみと一緒に通いたい』第2巻では、学園のバリアフリー化をめぐって星太が、光流が、そして二人を取り囲む人たちが少しずつ変わっていきます。彼らはどう変わるのでしょうか? そして、優紀高を支配する弱肉強食の空気は変わるのでしょうか?
 がむしゃらで、優しくて、たまにコミカルな闘いを通じて変わっていく若者たちを、一緒に見守ってくれますか?

こんな方々には特におすすめします。
・「人間って変わるんだ」と信じたい方
・がんばる若者を見ると胸が熱くなる方
・ツンデレキャラは嫌いじゃないよ、という方

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美濃達夫さんとの会話

「なにわt4eさん、先日お話しいただいた『きみと一緒に通いたい』第1巻(←Amazonの紹介ページへ飛びます)を読んでみましたが、すごくおもしろいですね」
 
 ありがとうございます、そう言っていただけるとうれしいですね。美濃さんが特におもしろいと思われたのはどんな点ですか?

「社会的なテーマを扱っていると同時に、各人物の人間性がちゃんと掘り下げられてる点ですね。Amazonのレビューを見てみたら『自分の価値観とは全く違うが、これからの日本を考える上では議論すべき内容』というレビューもありまして、そう思う人がいることにも作品の魅力が表れていると思います」

 おもしろいですね、あとでAmazonを見てみます。

「第2巻はまだ出てないんですか?」

 6月に出ましたよ。いい機会だからお話ししましょうか。

「ぜひお願いします」

あらすじ

 生徒会選挙の演説会で星太はのっけから聴衆にケンカを売り、「誰かを切り捨てるような母校で誇れるのかよ」と疑問を叩きつけました。会場は一触即発。それを光流の応援演説が和らげます。そして光流の「星太の怒りを見て思い出した。自分は人間だったんだ。あなたたちと一緒にこの学校で学びたい」という訴えが、校内世論に小さいながら確実な影響を与えました。ある時、校門前で星太と光流が支持を訴えているところへまり花が現れ、次の日曜日空けておくようにと光流に命じます。まり花の思惑とは?

変わり始める若者たち

華田─希望を持っていいのかも

 実はこの巻で、私が一番心を動かされた人物はチョイ役の華田なんです。

「そう言えば第1巻の時に『華田の今後が気になる』とおっしゃってましたね」

 ええ。体調を崩してまり花に切り捨てられ、華田はやむなく退学届を提出します。しかし彼女は、星太と光流の演説に心を揺さぶられました。

もし… 葉月くんが入学できたら どんな人も平等に 学べる学校になるなら 私も… 卒業できるかも なにかが 変わりそうな気がする(第6話)

「光流も、優紀高に通うことを一度は諦めていましたね」

 はい。その光流が、星太の怒りを見て自分の尊厳を思い出し

「俺は この学校に通いたい あなたたちと一緒に 同じ校舎で 授業を受けたい」(第5話)

と聴衆に訴える姿に涙を流しながら、華田は希望を取り戻したんです。今のところチョイ役ですが、「人や社会は変わるかもしれない」と信じ直した彼女は、ある意味で作品全体を象徴する人物かもしれません。

岩田─武骨で無口だが意外と熱い?

「他に気になる人物として、岩田も挙げておられましたが」

 そうなんです、特にこの第2巻では岩田の色々な面がかいま見られておもしろいんですよ。

「例えば?」

 絶対に選挙で勝って優紀高に新しい空気を入れろと星太にハッパをかける意外な熱さや、まり花が生徒を統率する手法を見抜く洞察力です。岩田は初め星太への態度を保留してましたが、総理大臣になれる器とかどうとかではなく社会の歪みへの怒りや人間そのものの価値を演説会で訴えた星太を認め、改めて仲間になったんだと思います。そして岩田は、演説会で光流を壇上に運んだ時に光流にこう言いました。

俺の妹も 車椅子が足で 人間だ(第5話)」

「何と言うか、事実を言ってるだけなのに岩田の万感がこもっているように聞こえますね」

 私もそう感じたんですよ。彼も出番は少ないものの星太たちのブレーン的な面もあり、物語の推進役、あるいは舵切り役として重要な人物だと思います。

光流─怒っていいことだったんだ

 岩田と同様、光流も第1巻では見られなかった面を見せています。

「と、おっしゃいますと?」

 一つ目は、「弱い奴は社会の足を引っ張るだけの 劣った存在」(第8話)と吐き捨てるまり花に見せた激しい怒りの表情。二つ目は、演説会で学費の値上げをまり花が口にした瞬間、殺意さえ感じる無数のまなざしが自分に向けられた恐怖を理解できなかった星太に向けた冷たい表情です。

 ただそれ以上に私が胸を打たれたのは、華田の話で少し触れましたが、光流が自分への差別に対して「怒っていいことだったんだ」と気づいたことです。

障害者の俺が バリアフリー設備のない学校を志望すること…ワガママだと思いますか? 俺が一番 そう思ってました だから面談で入学が難しいと言われたとき すぐに諦めた 諦めることが 俺の人生では当たり前だったから 「障害者」だから 歩ける奴と同じ道を行けないのは 仕方がないって そう思わないと 人生先へ進めないからです …でも 吉木星太は怒った 初めて知った 怒ってもいいことなんだって それで俺は やっと思い出すことができたんだ 俺は 人間だったんだ(第5話)

「…星太の怒りが光流を変え、自らの尊厳を思い出した光流が華田を変えてるんですね」

 はい。そしてそれらの根底には恐らく「…でも 世の中の役に立つ人間じゃなくても… 俺はるいが大事だ」という岩田の言葉、そして「いい子じゃなきゃ この世にいちゃいけないのか? 障害ある奴はない奴より 努力して人に好かれて 役に立たなきゃ認められないのか?」という星太の言葉があります。とても人間らしい連鎖反応だと思いました。

星太─孤立しがちだったけど

「で、一方の星太ですが、聴衆にケンカを売っちゃったんですか?」

 そうなんですよ、のっけから「黙れ大衆が 群れてんじゃねーぞ」(第5話)ですからね。さすがに光流も頭を抱えました。

「そりゃそうでしょう」

 ですが、星太の

言っとくけど お前らが今階段フツーに上れてるのは 別にお前らの手柄じゃねえからな たまたまなんだよ たまたま運が良かっただけ 生まれつきゲタはかせてもらってんだよ俺たちは! 誇れんのか? このままで 誰かを見捨てたままほっとくような学校の生徒で… そんな母校で誇れんのかって聞いてんだよ!!(第5話)

という叫びは、生徒たちの心に間違いなく響きました。よくも悪くも、ではありますが。

 そんな具合でよく言えば孤立を恐れない、悪く言えばプライドが高くて攻撃的なかかわり方が多い星太ですが、彼も変わりつつあるのかもしれません。

「と、おっしゃいますと?」

 一つ目は、演説の最後にとったある行動です。二つ目は、光流の恐怖を理解できなかったことで落ち込む自分をしずくが励ましてくれた時です。

…ありがとう 味方でいてくれて 俺別に 仲間がほしいとか思ったことないけど いたらいたで 心強いもんだなって 今思った(第7話)

 そんな風に人とのかかわり方に変化がみられる星太ですが、立ち居振る舞いにはちょっと中二病っぽいところもあります。

「え、どういうことですか?(笑)」

 第8話でまり花のクラスに乗り込む場面です。「おまえ、そのキメ方はどうなんだ……」とズッコケてしまいました。とは言え、数や権力に動じない肚の据わりようには敬意を表します。

しずく─少しずつ行動的に

 しずくも、星太とは違う意味で変わり始めています。

「どんな風にですか?」

 彼女は小柄で得意なことが特にないことに劣等感を抱いていて、そのためか周囲に軽く扱われがちな自分を諦めていました。ですが、星太たちと行動をともにする中で少しずつ行動的になっていきます。例えば、先ほどお話ししたように星太を励ましたり、あるいは権力者として依然恐れているであろうまり花に、エレベーター設置がすぐには無理でも人力で運ぶことはできると意見を伝えたり(第8話)。

「しずくと言い華田と言い、光流と言い、諦めていたものを求めてもう一度立ち上がったんですね」

 そうです。そういう人物像に私は心を動かされました。

まり花─衝突を繰り返す中で

 第1巻の時に少し触れましたが、まり花は「どれだけがんばってもパパには振り向いてもらえない」悲しみをずっと抱いてました。

「それはどうしてだったんですか?」

 父親の思考が露骨な男尊女卑で、ぼんやりものの息子にネオソーダを継がせるための下準備をまり花にさせていたんです。まり花がどれだけ努力しても、それは弟のための下準備をする能力としてしか評価されませんでした。

「……それじゃまるで、まり花は弟が会社を継ぐための道具……」

 自覚があるかどうかはともかく、父親は恐らくそう見ています。まり花も光流に

…私だって ある意味 ずっと差別されてきたのよ…(第9話)

と苦しい胸中を吐露しています。もちろん光流からすれば

知らねーっ!! え? なんのことですか? あなたの家の事情と 俺を排除することになんの関係が!?(同上)

なんですが、「差別されるものが他の誰かを差別する」「加害者が、別の場面では被害者でもある」という複雑な現実もうかがわれます。

 ただ、星太たちと衝突を繰り返すうちにまり花は彼らと対等に話をするようになります。それは

もしお互い心が近づけるなら 俺はそっちの世界の方がいいからさ(第10話)

という光流の態度から受けた影響かもしれません。

人ってどう変わるんだろう?

「いろいろお聞かせいただきましたが、多くの人物が少しずつ変わっていってますね」

 ええ。おもしろいことに彼らは、何かの大きな出来事で劇的に変わったわけではなく、「近くの人から受けた影響で」「少しずつ」変わっていってます。星太はしずくたちから、光流は星太から、しずくは星太たちから、まり花は光流から、そして華田は星太と光流の演説から。人間が・社会が変わっていく、特によい方向に変わっていくという時というのは、もしかしたらそんなものかもしれませんね。

 とりわけ大きく変わったのは、やはり一度は捨てた希望を取り戻した華田でしょう。今後の彼女がどうなるかは作品を待つほかありませんが、華田はもうちょっとやそっとでは自分の人生を諦めないと私は思います。

なにわt4eの感想

「なにわt4eさんのご感想をお聞かせください」

 くどいようですが、一度は挫けた華田が再び立ち上がる姿には心が震えました。チョイ役の華田にさりげなく作品全体の土台部分を表現させる手法が見事、という意味でも見逃せない存在です。

 演説会で言えば、星太と光流の演説に対する生徒たちの反応は一様ではありません。うしろめたさのような動揺を感じる生徒や反発を感じる生徒などさまざまです。しかしその次に壇上に立ったまり花が「バリアフリー化には大金がかかる、やろうとすれば学費の値上げが必要だ」と話すと彼らはみな「なんでお前ひとりのために自分たちが犠牲を強いられなくちゃいけないんだ」という目で光流をにらみます。恐怖に訴えられるとたちどころに一致団結できてしまう、人間の怖ろしさを感じました。ただ、星太の演説でかなり緊迫した雰囲気を光流が和らげる場面は楽しかったし、話の流れとしてもうまいと思いました。

 第7話では星太がしずくに、バリアフリーどころか社会全体が「障害者は家から出るな」という雰囲気だった数十年前に車椅子の障害者たちが無理やりバスに乗り込む運動を始めた、当時のバッシングはものすごかったがそれくらいの怒りを表明しなければ社会は動かなかったと話しています。

──ほんとはずっとムカついてる 闘わなきゃいけないことに なにが選挙だ 本当は0票だって光流は入学できるべきなんだ(第7話、強調は原文のまま)

  星太のこの言葉は真実だと思います。

 お話ししきれませんでしたが、光流とまり花が水族館に行く第10話は今後の転換点になりそうな気がしますし、まり花が第2巻で時々見せるツンデレめいた表情が刺さるという人も多いかもしれませんね。

「光流とまり花が水族館に!? 何しに行ったんですか?」

 ははは、そこは単行本でご確認ください。

「相変わらず気を持たせるんですから……」

『きみと一緒に通いたい』第2巻をさらに深く味わいたい方に

全国青い芝の会(←ウィキペディアの紹介ページへ飛びます)
 第7話で星太が話した抗議活動は1977年4月12日に起きた「川崎バス闘争」のことと思われます。全国青い芝の会とは脳性麻痺当事者の団体であり、川崎バス闘争を起こしたことで広く知られるようになりました。リンク先のウィキペディアで、この会や川崎バス闘争の概要を知ることができます。津久井やまゆり園の事件などにも触れられていますので、ぜひご一読ください。

・映画『インディペンデントリビング』
 大阪で自立生活(インディペンデントリビング)を営む障害者たちと、彼らを支援する人たちの生活を追ったドキュメンタリー。ここに映っているのは健気にがんばる障害者でも抑圧される被害者でもなく、いろんな人の手を借りながら生きたいように生きる、平凡でゆかいな人たちです。Vimeoにてレンタル視聴可能(2026年7月7日現在)。


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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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