『きみと一緒に通いたい』第1巻(うおやま)「弱い奴の方が 戦うのに向いてるはずだ 切実さが違うからな!」

目次

先にまとめから~弱者が声を上げることって? ~

 社会的な少数派、いわゆるマイノリティが世の中に対して「こうあってほしい」「こうしてほしい」と声を上げる……インターネット、特にSNSの普及によってそういう声を聞く機会が増えているように思います。

そうした声を聞いた時、あなたはどう思いますか?
「知らなかった、くわしく聞かせて」?
それとも、
「うるせえな、いちいち聞いていられるか」?

 本作『きみと一緒に通いたい』ではある属性のマイノリティを友人に持つ高校生、そしてその当事者が、無視されても沈黙せずに声を上げます。彼らの声は届くのか? 彼らは何を考え、何に気づくのか? 彼らの周りの人々は彼らをどう見る?
『木暮姉弟のとむらい喫茶』のうおやま氏が贈る、穏やかだけど熱血な学園ドラマ『きみと一緒に通いたい』。あなたも彼らと一緒に通ってみませんか?
 
 こんな方々には特におすすめします。

・ノイジーマイノリティという言葉に何となく割り切れないものを感じる方
・孤立無援になってもあきらめたくない何かがある方
・一味違った学園ドラマを読んでみたい方

※お断り
 コミックスの表紙では主要人物がどういったマイノリティなのか伏せられていますが、そこは物語の核心に関わる部分なので、本作を紹介するうえではどうしても触れることが避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

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美濃達夫さんとの会話

「なにわt4eさん、前にご紹介いただいた『木暮姉弟のとむらい喫茶』の作者が新作を発表してるそうですね」

 ああ、そうなんですよ。私もうおやま氏のXか何かでそれを知って、連載開始からずっと追って読んでます。

「今回も熱心に読んでおられるようですが、何という作品ですか?」

『きみと一緒に通いたい』(ヤングアニマル連載中、本原稿執筆時点)です。

あらすじ

「どんな作品ですか?」

 ジャンルとしては学園ドラマです。強気ないじめられっ子・吉木星太(せいた)とさわやか好青年・葉月光流(ひかる)は近所同士の幼なじみ。進学校である私立優紀高校を受験する光流に焚きつけられて星太は猛勉強、めでたく優紀高に合格するものの、喜びの電話をした星太に光流は「俺は不合格だった」と告げます。「成績優秀な光流が落ちるはずがない」と星太が生徒会に事情を尋ねたところ、光流は成績や学費とは全く別の理由で受験を取りやめていました。その理由とは?

光流はどうして入学を拒否された?

「受験の取りやめとはまたどうして?」

 光流は身体障害者で、車椅子ユーザーでした。そして優紀高には車椅子ユーザーのためのエレベーターがなく、それを理由に受験を拒否されたんです。

「……それはやりきれないでしょう、昨日の今日で作れるものではないとは言え」

 ええ。後述する事情で優紀高を牛耳っている生徒会副会長・黛まり花は、星太と光流には「障害者だから差別しているのではなく、エレベーターがないから通ってもらうことができない」と表向きの理由を話しますが、広報であり側近の中村セナにはこう明かしています。

優紀高に 「障害者」はいらないの 入れるメリットがないから(中略)階段すらひとりで上れない人間が 社会に役立つ人材になれると思う? 我が校の「実績」になれるの?(第1話)

「つまり、エレベーターがないからという理由以上に優生思想に基づいて光流の入学を拒否した、と?」

 そうです。

「で、彼らはどうしたんですか?」

 星太は入学早々まり花に宣言しました。友だちと一緒に通うために次の生徒会長選挙で生徒会長になってエレベーターを作る、と。そして星太と光流は一緒に戦う決意を固めました。しかし星太は度胸はありますがとにかく敵を作りがちな人物で、学内に蔓延する能力至上主義も相まって風当たりはかなり強いです。

 実は作者のうおやま氏がXでこう述べているんです。

社会的に弱い立場にある人が「こうしてほしい」と願い、それが拒否されたり批判されるとき その理由は金銭や諸事情だけでなく「無視しても大丈夫だろう」或いは「弱者なのに生意気だ」と軽んじられているからではないか 拙作でもっとも取り上げたく、また主人公が闘っているのはその部分です

「それ、まさしく星太と光流が置かれている状況そのものでは?」

 ええ、おっしゃる通りです。怒りが無視される、あるいは怒ることすら許されないということだと思いますが、彼らが直面しているこの状況は現代日本のあちこちで見ることができるのではないでしょうか。

「世の中の役に立つ人間じゃなくても……」

「星太の味方は光流しかいないんですか?」

 いえ、星太に耳を傾ける人物はわずかながら他にもいます。まず、クラスメイトの間宮しずく。彼女はセナから「選挙をあきらめさせろ」と命令されてしぶしぶ星太に接近しますが、少しずつ星太の思いに関心を示していきます。

 そしてもう1人、同じく岩田。彼には車椅子ユーザーの妹がおり、星太の主張を理解するとともに、友達を大事にする思いが伝わったと星太に話します。それに対して星太は照れ隠しもあってか、大事だからじゃなくて将来有望だから、総理大臣にもなれる奴だから、社会から排除されていい奴じゃないと答えました。

「で、岩田は?」

 こう言って、星太に投票するのはもう少し考えたいと言って別れました。

…そうか じゃあ俺の妹とは違うな 俺の妹──るいは知的障害あって こういう学校には入れないから だから正直… この学校にエレベーターがあろうがなかろうが 俺には関係ないんだよな… …でも 世の中の役に立つ人間じゃなくても… 俺はるいが大事だ(第3話)

「岩田のその言葉、かなり核心を突いてませんか?」

 私もそう思います。「世の中の役に立とうが立つまいが、俺の妹だから大事だ」という岩田の価値観は、「障害があっても他に凄いところがあるから大事なんじゃない。人間だというだけで大事なんだ」と言い換えることができるかもしれません。
 岩田の言葉は星太に大きな転換をもたらしました。あることで自分の醜い部分を自覚した光流に星太はこう言います。

もう知ってるし 人なんて皆綺麗じゃないって でも いい子じゃなきゃ この世にいちゃいけないのか? 障害ある奴はない奴より 努力して人に好かれて 役に立たなきゃ認められないのか? (…そうだよな岩田 君の言ったことは) 優紀高だってそうだ 優秀で 成功を求められて 強く生まれた奴しか 居場所はないのかよ(同上)

「星太のその言葉、まり花へのアンチテーゼと言えますよね」

 ええ。そして岩田と星太の言葉は今後、作品のキーになってくるんじゃないでしょうか。

「と、おっしゃいますと?」

 しずくは小柄で体質的にも丈夫ではないらしく、周囲から軽く扱われがちな自分を諦めてしまっていますし、今のところチョイ役ですが華田という3年生の女子生徒は「体調を崩して授業について行けないあなたは学校の負債」とまり花に告げられて涙ながらに退学を決意します。
 そんな彼女らが岩田と星太、そして光流に触発されて少しずつ前を向こうとすることは十分考えられますし、事実、第5話以降では彼女らの小さな変化がうかがわれる。それが「キーになりそうだ」と申し上げた理由です。

少しずつ起こる「変化」

 また第2巻を待つまでもなく、第1巻で様々な変化が起きています。

「どんな変化ですか?」

星太と光流の変化

 岩田の言葉で自分の思い込みや傲慢さを直視した星太もそうですし、光流もです。光流は優紀高への進学をあきらめ、髪を染めて部屋にこもるんですが、

きみはあの面談で 誰も知らないうちに排除されて 「いない者」にされたんだ そんなの納得いかねえじゃん(第2話)

と怒りを吐露した星太に触発され、星太とともにエレベーター設置を求めて戦い始めます。

学内としずくの変化

 何より私が目を引かれたのは、学内の変化です。星太の選挙ポスターにある「車椅子でも通える学校へ」という文言を見た生徒が

「え… うち 車いすの人も受けんの? 考えたことなかった」
「いやムリっしょ」
「でも合格できるんなら問題ないんじゃね」
「やーないっしょ」(第2話)

と話しているのを聞いて、しずくは

あっ 今… この人たちの中に 「車椅子の生徒」って概念が芽生えたんだきっと今まで… 意識もしてなかったよね …私もそうだった 障害のある生徒が受ける可能性なんて 吉木くんが立候補するまでは(同上)

と気づきます。

「……ゼロからプラスに変わったんですね」

 ええ、決定的な変化だと思いますよ。あと、まり花も私としては気になっています。

「それはまたどうして?」

 彼女の父親はネオソーダ株式会社という飲料会社、もちろん架空ですが、そこの社長で学校に多大な寄付をしていることからまり花が実質的には優紀高を牛耳っています。ですが、ある事情でまり花は「どれだけがんばってもパパには振り向いてもらえない」思いを常に抱えています。 

「まり花が徹底的に『役に立たないものは不要』と考えているのはその反動かもしれませんね」

 そうかもしれません。今のところ敵役ポジションの彼女が今後変化するのか、変化するとしたらどう変化するのか、ここが私は気になるんですよ。

ゆかいな凸凹コンビ

 ……と、なんだかハードな点ばかりお話しして来ましたね。

「大変興味深くお聞きしてますが、ちょっとお腹いっぱいではあります」

 とは言え学園ドラマらしいおもしろさも、ちゃんと用意されてますよ。

「それは何ですか?」

 何と言っても、星太と光流の凸凹コンビっぷりです。見境なしに大口叩くけど根は小心者でツンデレの星太、星太に引っ張られつつもおおむね常識人でツッコミ役の光流。そんな凸凹コンビは見ていて理屈抜きに楽しいですし、彼らが学園のバリアフリー化、さらには価値観の転換を求めてひたむきに突っ走る姿は作品の大きな牽引力にもなっています。星太が選挙ポスターをアップデートするエピソードにそれがよく表れてますね。同時に彼ら凸凹コンビが意味するものは「仲間がいるなら、どんなに困難でも人は戦える」ということかもしれません。

 単行本未収録の第6話はいかにも学園ドラマと言った話ですし、同時にしずくと岩田がそれまでより少し深く描かれています。

引っかかったこと──あなたはどう思いますか?

 この作品は、学園ドラマとしておもしろいのはもちろんですが、社会的な作品としても引っかかったことがたくさんあります。

「それは何ですか?」

障害者は清く正しく?

 一つは、先ほどお話しした岩田と星太の言葉です。美濃さん、「清く正しい障害者でなければ社会は受け入れない」と感じたことってありませんか?

「言われてみればパラリンピックの選手とか、障害に負けずにがんばってる人とかは紹介されても、そうじゃない障害者はほとんど紹介されてない気がします」

 それなんですよ。障害者だってそれなりに腹黒いし、それなりに優しい。同じ人間同士ってのはそういうことのはずなんですが「清く正しくない障害者」「健常者よりがんばってない障害者」は認めない、そんなムードがある気がします。岩田と星太の言葉はそれに対するアンチテーゼにもなりうると、私は思います。

「いつかご紹介いただいた『半分姉弟』(←本ブログの紹介ページへ飛びます)の、米山優太マンダンダの言葉に通じるものがありますね。黒い魚の話」

 あ、本当ですね。それだけ様々な人が同じことを感じているということかもしれません。そう言えばまり花も「男性優位の社会における女性」という意味ではマイノリティです。

だからカンペキでいなければ 能力 家柄 美しさ 性格 「女なのに」上に立つだけの納得できる理由を見せ続けなければ(第4話)

 まり花は大変な努力家であると同時に、こういう葛藤を強いられている面もあります。想像ではありますが、まり花の思いは多くの女性に共通する思いかもしれません。

怒ることすら許されない

 私は本作を読むとよく、名古屋市のタウンミーティングにおける「お前が我慢せえよ」発言(※1)や生活保護受給者が2013~2015年の保護費減額は違法だとして起こした訴訟(※2)を思い出します。このとき「そんな要求を受け入れたらいくらでも増長する」「支給されるだけでもありがたいと思え」のような意見が無数に聞かれました。

「ああ、ありましたね。先ほど挙げておられたうおやま氏の『無視しても大丈夫だろう』『弱者なのに生意気だ』にそっくりではないですか?」

 うおやま氏がこれらの出来事を念頭において投稿されたのかどうかは分かりませんが、そのまま当てはまると私は考えてます。「マイノリティは怒ることすら許されない」という現実を本作に見出すことは、無理な読み方ではないでしょう。

※1……名古屋城のバリアフリー化をめぐって、天守最上階までエレベーターを作ってほしいという障害者団体の要望に対して「お前が我慢せえよ」「その税金はもったいない」という発言があった。河村たかし市長もこの場に臨んでいたが、発言をたしなめることすらしなかった。
※2……デフレ調整として生活保護費が減額されたことに対して、受給者たちが「憲法で保障された生存権を侵害している」と訴えを起こした。2025年6月27日、最高裁はこの減額を違法として減額処分の取り消しを命じた。

なにわt4eの感想

「なにわt4eさんは本作を読んでどう思われましたか?」

 最初に言及したいのはうおやま氏の語り口ですね。氏の語り口は、星太たちの熱い思いをすくい上げつつもおおむね穏やかです。そういうところは前作『木暮姉弟のとむらい喫茶』で各人物を深く、思いやりをもって掘り下げたうおやま氏らしいと思いました。
 その一方でマジョリティ(多数派)の欺瞞やマイノリティの中にある歪みもきちんと描かれているので、現実的な迫力もあります。

「なにわt4eさんが最も気になる人物は誰ですか?」

 岩田と華田です。無口で武骨ですが妹思いで、星太に新たな視点を示した岩田はとても興味深い人物ですし、体調を崩したがリモートなら何とか授業を受けられるので環境を作ってほしいとまり花に頼むも「あなたは負債」と宣告され絶望の淵に落ちた華田の今後も非常に気になります。

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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