『魔法少女イナバ』第2巻(猫にゃん)「まさか君は自分が正しいとでも思ってるの?」

目次

先にまとめから~自分の存在が揺らぐとき~

自分が信じてきたものが、
自分が信じてきた人が、ある時揺らぐ。
自分は本当に正しかったの?
自分が信じてたあの人が、実は……。

 そういう経験をすることって、あまり多くはないかもしれません。でもその時、私たちはどうやってその「揺らぎ」に向き合えばいいでしょうか?

『魔法少女イナバ』第2巻では、魔法少女イナバこと城戸兎衣の信じる正義がわずかに揺らぎ、兎衣を心から信頼する少女ツクヨも残酷な揺らぎに直面します。光であろうとしつつも常に闇で闘うイナバ=兎衣、そして彼女を信頼するツクヨに救いはあるのでしょうか?

 こんな方には特におすすめします。

・「正義って何だろう?」と考えている方
・「正義の反対はまた別の正義」で済ませちゃうのもなんだかなあ……と感じる方
・ダークな物語を読んでいても希望を探したくなっちゃう方

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美濃達夫さんとの会話

(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)

「なにわt4eさん、『魔法少女イナバ』第2巻を本屋さんで見かけたんですが、表紙がさらに物騒になってましたね。ハンマーが血まみれなのは第1巻もでしたが、イナバの右目が潰れてるし全身血まみれだし」

 あ、ご覧になりましたか。そうですよね、第1巻もよく見るとイナバのあちこちに血痕らしき汚れがありましたが、さらに不穏なイラストでしたね。

「右目を潰されたのは第1巻の時少しお聞きしましたが……第2巻はもう読まれたんですか?」

 もちろん。

第2巻のあらすじ

 改人の家庭で虐待を受けるツクヨを保護しようとして兎衣は右目を潰され、左胸にも大怪我を負いました。兎衣とツクヨは互いの正体を知らないまま共同生活を始めます。兎衣はワニの改人ガクとの戦闘で改人が人間を襲う理由を知り、これまた改人を追っていたらしい女性フカシギ、その協力者オオサムに出会います。もっともオオサムはフカシギに脅されて嫌々協力していただけですが、ともかく3人は共同戦線を張ることになりました。

 高齢者デイサービス事業所「ぱらいそ」で働いてツクヨと暮らす資金を稼ごうとする兎衣。しかし改人であるツクヨは人間を食べなければ生きていけないため、体調を崩し始めます。加えてツクヨは兄のガクが殺されたことを知りました。兎衣は事情が分からないなりにツクヨの恐怖を受け止めてやりますが、ツクヨは兎衣がガクたちを殺した事実に気づき……。

ツクヨの絶望

「ツクヨは兎衣の正体を知ってしまうんですか?」

 そうです。動画で配信されたガクの最期をツクヨは見てしまったんです。

「その一方でツクヨにとって兎衣は、自分を保護してくれた恩人でもあるんですよね?」

 はい。兎衣との共同生活はツクヨにとって暖かな喜びに満ちたものであり、兎衣をツクヨは心から信頼していました。ただ、そもそも二人の生活が長く続くものではないことも、ツクヨは予感していたかもしれません。

「ツクヨは人間を食べないと生きていけないからですか?」

 そうです。普通の食事もできるようですが、それだけでは死んでしまう。彼ら改人はあるカルト宗教団体に傾倒した化学者が創り出した人造人間で、高い戦闘能力を備えていますが改造手術の影響で彼らの身体組織は極めて不安定です。人体にのみ存在するたんぱく質を摂取する、つまり人間を食べることが延命の方法だったんです(第9話「改人」)。

事実ツクヨの体調は日増しに悪化します。ただでさえ死が間近に迫る中、ガクたちを殺したのは兎衣だと知るんです。

「自分が死ぬ恐怖や家族が殺された苦しさもあると思いますが、自分が信頼してきたものがひっくり返ってしまうショックがそこに加わるとは……」

 ツクヨの胸中は察するに余りありますね。ガクを殺したのが兎衣かどうか、不安に駆られつつ確かめようとするツクヨの脳裏に浮かんだ兎衣の姿は、まだ右目と胸に傷を負う前の、ツクヨが初めて会った時の姿でした。それが意味するものは、ツクヨが兎衣に寄せていた感謝と信頼の大きさだったのかもしれません。
 ただ、ショックで街をさまようツクヨに兄と思しきキツネの改人が

家に帰ろうツクヨ ツクヨは一度僕たちを捨てたけど 過ちを許そう 僕たちは家族だ(第10話「日常の終わり」)

と呼びかけるのですが、ツクヨの表情はキツネの言葉を心から受け入れているようにはあまり見えません。

「兎衣への思いも断ち切れないから?」

 一つにはそれが考えられますね。またツクヨは家族の狂信的な信仰に疑問を抱いていたので、それも理由の一つとして考えられるでしょう(第4話「兎とウサギ」)

第1巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)についてお聞きした時に、ツクヨとの出会いは兎衣とツクヨに大きな好影響を与えるかもしれない、ただ楽観はできないがという意味のことをおっしゃってましたね。非常に残念ですが、楽観できないという方が的中しているように思えます」

 そんな感じですね……。

揺らぎ始める兎衣の「正義」

ツクヨが体験したものが「信頼への揺らぎ」なら兎衣のそれは「正義への揺らぎ」と言えるかもしれません。

「どういうことですか?」

 兎衣はガクから、

僕たちは人を食べて取り込まないと身体を維持できない 無理やり身体を改造された 改人だからね 僕だって本当はこんなことしたくないけど 死にたくないし家族を死なせたくもない(第6話「ウサギとワニと」)

と聞かされ、

なんかそれじゃまるで あなたたちがそんなに悪者じゃないみたいな感じなんだけど(同上)

と動揺します。しかもガクは、

悪いよ 人を殺してるんだから(同上)

と認めています。結局兎衣はフカシギと協力してガクを殺害しますが、自分の正義にわずかな迷いを抱いた節はあります。今後兎衣がその迷いを忘れて突っ走るのか、あるいはどこかで立ち尽くすのか、そこは今のところ分かりません。

 よく考えると兎衣は「私も光でありたい」(第1話「変身! 私が…魔法少女!!」)と願うものの、改人たちとの戦闘で誰かの光になっているかは疑問です。もちろん他の犠牲者が生まれることを防いでいる可能性は無視できませんが。戦闘の舞台が常に暗闇か密室であることも、彼女が果たして光になっているかどうかを暗示しているような気がします。

 私は第2巻の兎衣を見ていて、『アンパンマン』の作者・やなせたかし氏のある言葉を思い出しました。

「それは何ですか?」

逆転しない正義とは献身と愛だ。それも決して大げさなことではなく、眼の前で餓死しそうな人がいるとすれば、その人に一片のパンを与えること(『アンパンマンの遺書』やなせたかし、P.70)

 やなせたかし氏は敗戦によって一晩で正義が逆転するのを目の当たりにしました。かと言って「正義の反対はまた別の正義」という相対主義にとどまったわけでもなく、その先にある「逆転しない正義」へと至ったんです。

 第2巻の最後で兎衣はツクヨも改人であることを知ります。このことで改人を倒すことへの迷いは「悪人にも一定の事情がある」という漠然としたものから一気に「自分はツクヨにどう向き合うのか」という自分ごとに変わったと言えるでしょう。兎衣は「『改人を倒す』という自分の正義の反対は『死にたくないから人間を食べる』という改人の正義」にとどまるのか、その先にあるかもしれない何らかの「逆転しない正義」に至るのか、できるならそこを見届けたい思いが私にはあるんです。

新たな……仲間?

「ところで、先ほどから何度か出ているフカシギやオオサムについてお聞きしたいのですが」

 そうですよね、そこもお話ししましょう。

フカシギ

 彼女も兎衣とはまた別に改人を狩っていました。

「それはどうしてですか?」

 今のところ不明ですが、教団と何らかのかかわりがある様子です。彼女はガクを狩りに来たところに居合わせた兎衣と共同戦線を張ります。フカシギは嘘や脅迫にためらいがなくかつ巧み、計算高さと戦闘能力を兼ね備え、兎衣とは違う意味で危険な人物です。言葉巧みに兎衣を味方につけますが、どちらかと言うと利用しているように見えました。

オオサム

 彼はオカルト系動画配信チャンネル「オーサムチャンネル」の主催者です。兎衣とユウヒやミヤビが闘った跡地を興味半分で調査したことがきっかけでフカシギに脅され、協力を余儀なくされました。

「『君子危うきに近寄らず』の逆を行ってますね」

 まあそう言えるでしょうね。あと一人、触れておきましょうか。

「誰ですか?」

穂田瑠月(ほだ るつき)

 穂田は「ぱらいそ」の職員です。徘徊していた利用者を、たまたま兎衣と二人で保護したことから兎衣に「ぱらいそ」の仕事を紹介したんです。

「先輩職員というわけですか」

 そうです。笑顔を絶やさず利用者に接する彼女は、平穏な日常を代表するような人物です。ただ、そんな彼女ですが……。

「ですが?」

 いえ、そこはひとまず伏せておきましょう。ネタバレになりそうですので。

「また気を持たせるんですから……」

なにわt4eの感想

「なにわt4eさんは第2巻を読んでどう思われましたか?」

 やはりツクヨの胸中を思うと自分の胸も痛くなりますね。このままでは自分は死ぬ、そんな時に兄のガクが殺されたと知ったんですから。しかも事情を知らないなりに自分の恐怖や混乱を受け止めてくれた兎衣がそのガクを、また他の家族を殺した張本人だと知ってしまったショックは想像を絶します。

 そして兎衣も、ツクヨと暮らすようになって一緒にご飯を食べる人ができたり仕事がみつかったりと、いろいろな意味で生活が好転したわけですが、最後にツクヨが改人であることを知ってしまう。これらの大きな揺らぎに直面した彼女らが今後どうなるのか気になって仕方ありません。ただ兎衣のことですから、狂気に任せて突っ走ったとしても不思議ではありませんが。 

 ところで、兎衣が変身するイナバはウサギがモティーフですし、ツクヨもウサギの改人なんです。

「そうなんですか!?」

 ええ。そこに何らかの意味があるのか、あるとしたら今後明らかになるのか、その点も実は気になっています。

 ともかく、兎衣とツクヨに何らかの救いがあることを願ってはいますが、どうなることやら……。

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『アイちゃんとえほん』ワキサ
「桃太郎」「シンデレラ」「おおきなかぶ」……みんな大好き昔話。その昔話が、ちょっといじるとえらいことに……!! 有名な昔話や絵本を換骨奪胎、ときにお下劣ときに辛辣、でも何だか深いような浅いようなの新しい昔話に変換しちゃったマンガです。第1話「桃太郎」では、鬼ヶ島から帰った桃太郎が真の「鬼退治」に出かけます。これも、やなせたかし氏が言うところの「逆転しない正義」かもしれません。


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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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