『女の子がいる場所は』(やまじえびね)女性であるが故の抑圧にどう向き合う?

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(今回はいつもと反対に、架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介いただきます)

「なにわt4eさん、『女の子がいる場所は』という漫画をご存知ですか?」

 いえ、初めて聞く作品です。お読みになったんですか?

「ええ、先日ジム帰りに寄った本屋さんで買ったんです。絵柄はシンプルだけど何だか惹きつけられるし、帯の『国も宗教も文化も違う少女たちに降りかかる“女の子だから”』というフレーズに興味を感じたので買って、家で即日読みしました」

目次

どんな本か教えていただけますか?

「『女だから家事さえできればいい』『女の子がスポーツなんかするな』っていう考え方が根強く残る地域とか国ってありますよね。そういう国々で男尊女卑とかジェンダーとかに葛藤する女の子を描いた短編集です」

 いろいろな国が舞台なんですね?

「はい。載ってる順にサウジアラビア、モロッコ、インド、日本、アフガニスタンの5か国です。それぞれに関連はなく、すべて独立したお話です」

この本のおすすめポイントはどんなところですか?

「何と言うか、絵柄も内容もストイックなんですね。女が自分の意志で生きられない社会を糾弾するとか、怒りをあらわにする感じじゃないんです。例えばサウジアラビアを舞台にした第1話ではサッカーが大好きな少女サルマが、女性の生きる道が結婚にしかない現実を垣間見るんですが、作品はどちらかと言うとサルマの複雑な思いに焦点を合わせてます」

 全ての作品がそういう作風なんですか?

「もちろん全体のテーマが社会的ですから、人物の内面ばかりを描いてるわけじゃありません。インドが舞台の第3話やアフガニスタンが舞台の第5話はメッセージ性が強いです。例えば第5話、主人公ムルサルのこんな独白がそうです」

ノートと鉛筆を/わたしたちから取り上げないで/行きたいところへ自由に行かせて/家の中にわたしたちを閉じ込めないで/どんな目に遭っても/くじけてはいけない(P.198~200)

「とは言え全体的にはやはり抑えた感じですね。現状をただ受け入れるわけでもなく、強烈に批判するわけでもなく、『あなたはどう考えますか?』と問いかけてくる作品という気がしました

どんな反響があるんでしょう?

「私も気になって、少し検索したんです。好意的なコメントが多いですが、結構辛辣な意見もあります。『日本の話ではジェネレーションギャップにも注目』『10歳の女の子が理不尽と戦う決意を固めたことに感動』『社会性は強いが強烈なインパクトで伝える作品ではなく読みやすい』という評価があったり『食い足りない』『きれいごとっぽい、特に日本の話が』『要は現状の追認じゃないか』という評価もあったり」

 …美濃さんのおっしゃる抑えた作風が、魅力にも仇にもなってるみたいですね。

「そんな気がします」

美濃さんはどんな感想を抱かれましたか?

「第一の感想としては、とても面白かったです。さらっと読めるのに内容がしっかりしてて。ただ先ほどご紹介したような批判はそれなりにうなずけるし、私も疑問を感じた点があります」
 
 例えばどんなところですか?

「一番には第3話の最後です。主人公の少女カンティがインド社会の理不尽と戦う決意を固めるんですが、目の前の問題は何も解決されてない。本当にこれでよかったんだろうかと割り切れないものはあります。あと、疑問ではありませんがこういうテーマで日本が舞台になってるのは少し意外でした。ですが読んでみると『確かにこんなことはあるだろうな』と納得しましたし、意外に思ったのは自分が男だからかもしれません」

まとめ

 毀誉褒貶と言うと大げさですが、それなりに評価の分かれる作品ではあるようです。しかし、食い足りないなら「それなら自分はどう考えるか?」「自分だったらどう行動するか?」と考えることもできるでしょう。また、「今の日本って女尊男卑じゃん」「権利権利ってフェミうざい」という声もよく聞きます。そういう意見をお持ちの方が本書を読んだらどう思われるか、それも大変興味深いです。ともあれ男女差別やジェンダーの問題に関心がある方には片っ端からお勧めの本です。著者の結論を読むのではなく、ご自分なりの結論を導き出すための一冊として。
ちなみに登場各国のジェンダーギャップ指数(その国で男女がどれだけ対等かを示す指数。順位が高いほど平等)を調べてみると、2022年は以下の通りでした。
(本書登場順)
サウジアラビア127位
モロッコ136位
インド135位
日本116位
アフガニスタン146位

(今回はあまり読書慣れしてない美濃さんが紹介してくださるという設定なので、何とか読書慣れしてない雰囲気を出そうと言葉の選択をいろいろ工夫してみました。こういう工夫も難しいものですね)

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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