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(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、戦争と平和をテーマとした今評判の絵本があるそうですね」
ええと…『世界で最後の花』ですか?
「そうです、そんなタイトルでした。書店員さんにもこの本を絶賛する人が多いみたいですが、絵本が大人の間でも評判になることってあるんですか?」
ありますよ。書き方は子ども向けだけど内容はとても社会性が強いとか、著名人がSNSで紹介しているから読んでみたら大人も胸を打たれるお話だったとか。
「あらすじを教えてください」
繰り返される大戦争で滅びかけた世界が一輪の花をきっかけによみがえり、復興し、また雲行きが怪しくなり…という物語です。絵本ですからまず絵が重要ですが、「たったこれだけの線なのに、これは兵士だ、これはウサギだ、とちゃんと分かる!」と一読して驚きました。おまけにユーモラスで表情豊かなんです。
「作者は相当絵が上手なんですね。もともと絵本を書く作家だったんですか?」
それがおもしろいことに違うんですよ。著者ジェームズ・サーバー氏は国務省職員、新聞記者、編集者という経歴の持ち主です。サーバーがたまに落書きしてはゴミ箱に捨てていたのを同僚が拾って見たところ「これいいじゃん!」。それがきっかけで漫画家としての活動を始め、漫画・小説・エッセイなど幅広く健筆をふるったそうです。
「どうして評判なんでしょうね?」
私の考えですが、これらが読者をひきつけるポイントだと思います。
・ユーモラスで表情豊かな絵
・希望と皮肉の入り混じる物語
・「戦争はいけないよ」だけではなくきちんと読者に考えさせる力がある
一つ目ですが絵がうまいだけでなく、人間が次第に喜びを取り戻す場面や弁舌家が不満をネタに人々を扇動する場面など、表情や身振りがとても雄弁なんですよ。二つ目、この物語を「人類は何度でもやり直せる」希望と取るか「何度やり直しても同じ過ちを繰り返す」皮肉と取るか、そこは読者にゆだねられています。シンプルだけど一筋縄ではいきません。似たテーマのSF小説、ウォルター・M・ミラー・ジュニア『黙示録3174年』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)は明らかに皮肉として書かれていましたが、そちらも機会があればお話ししたいと思います。三つ目ですが、あちこちの場面で「どうせこうなると分かっていたはずなのになぜ?」「もしここで違う選択をしていたら?」といった具合に読者は自然と様々なことを考えます。例えば私は2場面め、兵士の大群の中に一人だけ表情が違う兵士がいることが気になって仕方ありません。彼は何を感じているのだろうか、と考えないではいられないんです。本作は戦争を非常にシニカルに描いてはいますが「戦争はいけないよ」と絶叫して終わりではありません。単に皮肉とか希望とか言うこと以上に、そこが『世界で最後の花』の本当の力かもしれませんね。
加えて、ウクライナ戦争(筆者はウクライナ侵略と呼ぶべきと考えてますが)も本作が今読まれる背景の一つでしょう。村上春樹が訳したという言わばハルキパワーもあるかもしれません。ただハルキパワーはあくまで『世界で最後の花』を人目につくところに引っ張り出す一つの助けになったというだけで、決め手は疑いなく作品自体の魅力です。
「なにわt4eさんはどう思われましたか?」
私の感想を正直に言うと「結局、歴史って繰り返すんだよね」という物語にはあまり新鮮味を感じませんでした。ただ先述の通り希望とも皮肉ともとれる複雑さや読者に色々なことを考えさせる力があり、一見シンプルですが実は非常に複雑。おもしろいかつまらないかで言えばとてもおもしろかったです。もともとは1939年に出版されたロングセラーらしいですが、それもうなずける名作ですね。
私がもっとも重要な場面だと思うのは、弁舌家が登場する場面です。人々の不満を巧みにかぎ取り、利用し、大声をはりあげ、支持を獲得する。彼らが扇動する先にあるものはたいてい戦争であり、仮に戦争でなくても極めてろくでもないものです。こういう輩の口車に乗らないことで防げる戦争もあるのではないか。そんなことを考えました。
まとめ
副題に「絵のついた寓話」とあるように、絵本ではありますがこれは童話と言うより寓話(教訓や警句を含む架空の物語。イソップ物語がよい例)です。そして寓話がしばしばそうであるように、本作も読者に様々な解釈や疑問の余地を提供しています。戦争と平和の問題に関心がある方はもちろん、絵本や寓話が好きな方、多様な解釈ができる作品が好きな方におすすめします。翻訳が村上春樹なのでアンチ春樹という方はためらいを感じるかもしれませんが、そうした方もこだわりなく読めると思いますよ。なお『そして、一輪の花のほかは…』というタイトルで1983年に高木誠一郎氏が翻訳しています。こちらは絶版のようですが、翻訳オタクの私としては読み比べてみたいところです。
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