『ピースマンのチョキチョキなんてこわくない!』(さく・あかまつりゅうじ え・ただふみひこ)スマイルカットってなんだろう?

目次

先にまとめから

「スマイルカット」をご存知ですか?

 発達障がい児の中には、散髪をしてもらうことがとても苦手な子がいます。

 ・触られるのが大の苦手
 ・聴覚が敏感過ぎてハサミやバリカンの音がものすごい轟音に聞こえる
 ・じっと座っていられない

など理由は様々ですが、理・美容師さんも親御さんも、誰より子ども自身が困っています。

「だいじょうぶ! 少しずつなれていって、笑顔でチョキチョキできるようになろうね」

 そんな趣旨で京都の美容師・赤松隆滋氏が立ち上げた、散髪が苦手な子どもに寄り添う散髪。それがスマイルカット。本書は散髪が苦手で頭がボサボサになっちゃった少年ふみちゃんがスマイルカットと出会い、成長する物語です。

※ここでは本書の表記にならって「発達障がい」と表記しております。

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美濃達夫さんとの会話

(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)

 美濃さん、散髪されましたか? ずいぶんさっぱりされましたね。

「ええ、実は3か月ぶりです。散髪が嫌いなわけじゃないんですが、ついズボラしちゃって」

 私もうっかりして2~3か月あいてしまうことがたまにあります。

「切れば切ったで気持ちいいんですけどね」

 散髪と言えば、最近YOUTUBEでとても興味深い動画を観ましたよ。

「どんな動画ですか?」

 スマイルカットと言いまして、発達の特性ゆえに散髪が大の苦手な子どもに少しずつ散髪に慣れてもらおうという取り組みを紹介した動画です。それを立ち上げたのは赤松隆滋氏、京都の美容師さんです。

「スマイルカット、ですか」

 はい。で、そのスマイルカットをテーマにした絵本があると知って読んでみましたが、こちらもとてもおもしろかったですよ。

「何という絵本ですか?」

 『ピースマンのチョキチョキなんてこわくない!』です。

あらすじ

「ピースマン? 何かのヒーローっぽい名前ですね」

 ご明察! あらすじはですね…。

 小学生のふみちゃんは散髪をとても怖がっていて、お母さんも困っていました。そこへ現れたのは、髪がボサボサの子どもをさらにボサボサにしてしまうボーサボーサ。ふみちゃん大ピンチ! だけどふみちゃんは散髪が苦手な子どもを優しく励ますヒーロー、星髪(せいはつ)戦士ピースマンの二人と出会います。ふみちゃんはピースマンのスマイルカットに挑戦できるか!? そしてふみちゃんが思い出したものとは何か!?

本書の魅力

「楽しそうな本ですね、何となくもっとシリアスな内容を想像しましたが」

 楽しくない本なんて、子どもは読んじゃくれませんからね。私が本書を読んで特におもしろいと思ったところは、

 ・子どもに親身なピースマン
 ・一見悪者のボーサボーサ、実は…?
 ・ふみちゃんの成長

の三点です。

子どもに親身なピースマン

 ピースマンはふみちゃんの髪を切ろうと試みますが、無理に押さえつけるとかおだててのせるとかするわけではありません。あまり詳しくは描かれていませんが、小さな一歩(スモールステップ)を積み重ねてもらおうとしています。それもふみちゃんのペースで。

「…だからこそヒーローなのかもしれませんね」

 同感です。先に少し触れた動画ではある男の子が紹介されていました。この時赤松氏はその子と仲良くなるところから始めて、「今日はお店に入ろう」「今日はお店で過ごそう」という具合に段階を提示しています。その子は赤松氏と初めて会った一年後、スマイルカットに挑戦できました。
 
 また、読みながら「なるほど確かにここを怖いと思う子どももいるかもな」と思った箇所があります。実際にそこを怖がる子どももいたのかもしれません。

一見悪者のボーサボーサ、実は…?

「名前からして悪者っぽいですね」

 何しろ子どもの頭をボサボサにしてしまうわけですからね。ただ、ピースマンにやっつけられてはいますがブチのめされるわけではなく、後半で彼は彼なりにふみちゃんを思いやっていることが描かれます。

「…ピースマンとやり方は違うけど、ですか?」

 ええ。回想シーンの最後、ボーサボーサはピースマンの二人に挟まれて立っています。この描き方が、ボーサボーサがふみちゃんに対してどういう存在なのかを暗示していると思います。

ふみちゃんの成長

「ふみちゃんはスマイルカットに挑戦できたんですか?」

 そこを言っちゃうとネタバレになってしまうので、ふみちゃんは一歩成長したとだけ申し上げておきます。それから後半にふみちゃんの回想があるのですが、ふみちゃんはピースマンとボーサボーサが自分にとってどういう存在かに気づきます。

「それもふみちゃんの大きな成長ですね」

 私もそう思いました。

本書が生まれた背景

「実話に基づく絵本ですよね」

 はい。さすがにピースマンやボーサボーサは実在しませんが(※)、赤松氏が自分の手がけるスマイルカットをお話にして、それを赤松氏の友人でもあるイラストレーター多田文彦氏が絵本に仕立てたものです。

 赤松氏は子どもが好きで教員を志望しましたが知人の誘いで美容師になった方です。ある時、発達障がいのお子さんを持つ親御さんから「子どもが散髪を怖がる」と相談を受けました。この時にある失敗をしましたが、それがきっかけで発達障がいを学び始め、2014年にNPO法人「そらいろプロジェクト京都」を立ち上げました。現在(2024年4月)も赤松氏はスマイルカットを広げること、自分の美容室で実践することに尽力しています。加えて発達障がいがある子どものヘアカットマニュアルを作成するため大学院に入り、専門教育を受けています。

※ただし、どちらも後述するヒーローショーのキャラクターとしては実在します。

感想

「なにわt4eさんはその本を読んでどう思われましたか?」

 単純なようでいて、実は多様な側面のあるお話だと思いました。ふみちゃんの内省、過去の体験、そしてボーサボーサの立ち位置など、「壁を乗り越えてバンザイ」に加えてふみちゃんの葛藤や発見などを巧みに盛り込んでいます。なおかつ読んで楽しい。ふみちゃんのお母さんやお父さんも、チョイ役的な扱いですが個性豊かに描かれてますしね。
 また、じっくり読むととても芸が細かいことに気づきました。

「と、おっしゃいますと?」

 ふみちゃんの思いを受け止めるピースレッドや寄り添いつつ挑戦をうながすピースブルーの描き方に説得力がありますし、最後にふみちゃんが家を出て学校に向かう場面は色々と遊びが仕掛けてあるんです。ついでに言うと、私はピースマンの必殺武器ドライバズーカを見て『ジャッカー電撃隊』のビッグボンバーを連想しました。

「…?」

 すみません、忘れてください(笑)。

 そらいろプロジェクト京都のホームページで赤松氏はこう書いています。

僕のできるコトは何だろう。
「ハサミを使って人に喜んでもらうこと。」
美容室に行くことができない発達障がい児がいるのなら、その子が美容室でカットができるようになる日まで、エスコートする美容師がいても良いじゃないだろうか。

 そのために大学院には入るわ北海道から沖縄までスマイルカットを広めるわ、真摯な思いを実現するための行動力にも感銘を受けました。と言うよりワクワクしましたね。人間ってこんな素敵なことができるんだ、と。

 なお本書には第2作『ピースマンのまほうのハサミ』もあります。そちらも読んでみたいですね。

 現在そらいろプロジェクト京都はスマイルカットのみならず、貧困家庭に散髪の機会を提供するハピハピカット、ヒーローショーで障がいがある子どもへのサポートや理解を広げる星髪戦士ピースマンなどの活動を実施しています。
 興味を持たれた方は、下記リンクから詳細をご覧ください。

●特定非営利活動法人 そらいろプロジェクト京都 ホームページ
https://www.sora-pro.jp/

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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