『デビルマン』(永井豪)「地獄へおちろ人間ども!」

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(架空の人物・美濃達夫さんから本書について尋ねられた、という設定で書いております)

「有名な作品なんですよね、タイトルくらいは聞いたことがあります」

 そうですね。発表は1972年ですから50年くらい経ってます(2023年時点)。

「人間が悪魔になって悪魔と戦う話?」

 ええ。正確に言うと原作のマンガでは主人公・不動明が人間を守るために自分の意思でデーモン、つまり悪魔と合体してデーモンの超能力を手に入れます。心は人間のまま。それに対して同時期に放送されたTVアニメ版ではデーモンが不動明の肉体も心ものっとるのですが、牧村美樹を愛したためにデーモン一族を裏切って人間のために戦います。

「立ち位置と言うか、不動明のあり方が違いますね。で、マンガの方ですが、『トラウマ』とか『鬱』とか『グロ』とか『ラストが謎めいてる』とか聞きます」

 そうなんですよ、トラウママンガとか鬱マンガとかの筆頭扱いされる作品でもあります。ただ、それだけの作品じゃありません。きわめて重厚なテーマを扱っています。

「ちょっとためらいますが、興味はあるので『デビルマン』について教えてもらえますか?取引先の方もお読みになったことがあるかもしれないし」

 いいですよ、何からお話ししましょうか?

目次

「じゃ、やっぱりあらすじからお願いします」

 訳あって牧村家に居候する青年・不動明はデーモン一族、いわゆる悪魔が現在ひそかに侵略を開始していることを親友・飛鳥了から聞かされます。明と了は人間を守るためにデーモンと合体を試み、明だけが合体に成功しました。悪魔の肉体と人間の心を併せ持つ、デビルマン(悪魔人間)の誕生です。

 襲い来るデーモンを撃退するデビルマン。あるとき、人間が急に怪物化して死ぬ事件が続発します。人間を殺すことより恐怖をあおることを目的として、死を覚悟のうえ人間と無差別合体をはかる、デーモンの特攻作戦です。しかしこの作戦で明以外にもデビルマンが生まれていました。明はデビルマン軍団の結成を決意します。
 
 一方、デーモンに対抗する切り札として悪魔特別捜査隊が発足。加えてノーベル賞学者の雷沼教授が「悪魔の正体は人間だ。社会に不満を持つ人間が別生物に変身することで不満を満たそうとしたのだ。悪魔を滅ぼすためには社会に不満を持つ人間を滅ぼせ」と発表します。この発表が世界中に戦争と内乱を引き起こしました。危機感を募らせた明は極秘裏に世界中のデビルマンとのネットワーク構築を試みます。

 そんな中テレビに了が出演し、デーモンと人間が合体するには難しい条件があることを隠して「デーモンはいつでも人間と合体できるのです。私の親友・不動明も合体されました。そして牧村家に身を寄せ何食わぬ顔で暮らしています。あなたの近くにいる人も、もしかしたらデーモンが合体してるかもしれませんよ。そいつに襲われる前に殺すのです」と視聴者をミスリードします。互いへの疑心暗鬼がピークに達した人類は…。

「『トラウマ作品』『鬱マンガ』『グロ』だそうですが、どんなところがですか?」

 本作のトラウマエピソードとして対ジンメン戦が有名です。亀に似た姿のジンメンが明と仲良しの少女・サッちゃんを食い殺し、明を呼び出します。怒りに燃えてデビルマンに変身する明。しかし甲羅に浮かぶサッちゃんを見せつけられて…ジンメンの甲羅には食い殺した人間の顔が浮かび、しかも生前の意識を保っているのです。 本作の「トラウマ」「鬱」「グロ」はそれにとどまりません。中盤まではあくまで極上のホラーマンガですが、いきなり不動明の語りが入るあたりから物語は人間の醜悪さを容赦なく読者に突きつけます。「地獄へおちろ人間ども!」人間に絶望した明が叫ぶセリフですが、本作を読むと心底このセリフに同感します。

「ちょっとくらいホッとするエピソードもないんですか?」

 ホッとするというより、いくらかユーモラスなエピソードならあります。明が不良グループを返り討ちにするエピソードは、牧村美樹の言葉を借りれば「やくざ映画一本ただ見したカンジ」です。ただ、これも中盤以前のエピソードですからね…。

「そんな、鬱でグロテスクな描写も多い作品がどうして今も読み継がれてるんでしょうね?」

 「おもしろいから」やはりこれに尽きるでしょう。粗削りですがダイナミックな絵柄、黙示録さながらの壮大な世界観、鬼気迫る語り口、謎の光球、人間の醜悪さを抉り出す容赦のなさ、様々な解釈を許すラストシーン。同時期にTVアニメ版を放送した今風に言えばメディアミックス戦略の巧みさも大きな要因だと思いますが、何と言っても作品自体の魅力あればこそ今も読み継がれているんです。関東地方が大地震に見舞われ、復興も進まずついに日本政府から見捨てられ無法地帯と化す別作品『バイオレンスジャック』は謎の巨漢をめぐる人間群像ですが、『デビルマン』はこの『バイオレンスジャック』と並んで永井作品の核をなしています。

「え、それはどんな風に?」

 それはそれぞれを読んでのお楽しみですよ、ははは。

「分かりました(笑)。それで、なにわt4eさんは『デビルマン』を読んでどう思いましたか?」

 子ども時代にこれを読んで、完全に人生観が変わりましたね。人間ってこんなに醜くてあさましくて弱いものなのか、群集心理ってこんなに恐ろしいのかと。でも、それも含めて猛烈に面白かったですし、今も大好きな作品です。人間の醜悪さを描いた永井作品としては未完の長編『真夜中の戦士』短編の『鬼』もあります。これらも名作ですが、救いのなさやデーモン一族の強烈なヴィジュアル、スケールの壮大さがやはり『デビルマン』を比肩するもののない名作にしていると思います。

まとめ

 デリケートな方ならショックで寝込んでもおかしくない、「猛毒含みの大名作」と言えるでしょう。海外にも紹介され、スピンオフやリメイクも多数発表されています。哲学的・文学的マンガを読みたい方には強くおススメします。ご自分自身を含めた人間に絶望してもかまわないなら、ですが。

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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