『やさしさいっぱいの土の上で』(アボガド6)21世紀の『火の鳥』!

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(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)

 美濃さん、この本ご存知ですか?

「『やさしさいっぱいの土の上で』ですか。いえ、存じません」

 先日、たまたま書店で見かけて買ったんです。で、帰宅してからさっそく読みました。

「どうでしたか?」
 
 これをご紹介せずして何をご紹介するんだ! と思いましたよ。ぜひとも美濃さんに(また本ブログをお読みのみなさんに)お読みいただきたい作品です。

目次

「お聞きするのが楽しみですね。どんな本ですか?」

 クローン技術やロボット工学が高度に発達した未来に世界規模の戦争が起き、巨大なシェルター内での生活を余儀なくされるくらい地球環境は悪化しました。ロボットが汚染物質を清掃して環境は浄化されたものの、ロボットは「人間のエゴが戦争と汚染を引き起こした」と考えて人間を殺し始め、人間とロボットは全面戦争に突入します。人間サイドは無限に供給できる兵士として、死を恐れないよう洗脳されたクローンを次々に送り出しました。しかし、洗脳が効いていないクローンをクローン元のオリジナルが見つけ、ある密命を託します。それはロボット・クローン・人間が平和に共存するための密命でした…。

 という筋立てのSFマンガです。

「すごくおもしろそうじゃないですか!」

 そう思うでしょう?実際、ものすごくおもしろいんですよ。私が特に強く心を打たれた点は次の二つです。

 1.風刺てんこ盛りな中にこめられた真摯なメッセージ
 2.死者を見送って悲しみや淋しさの中にある時、何が希望になるのか?という考察

「詳しく聞かせてください」

 1.で言うと平和を求める心と、求めるだけではなく平和を実現する強い意志です。序盤で、ロボットと人間が共存するために地球清掃ロボットを開発するななちゃんと八津の科学者コンビ。中盤で、捕虜としてとらえたクローン兵士と次第に仲良くなるロボット軍とその隊長。終盤でオリジナルがクローンに託した密命、それを受けたクローンとロボットの決断。共通しているのは「平和でなきゃダメだ! でも願っているだけでもダメなんだ!」という信念です。ここではロボット・クローン・人間という異種族同士の共存がテーマとなっていますが、これは異民族とか国家間とか異なるセクシュアリティとかにも通じることではないでしょうか。

 次に2.ですが、この作品には大切な人の死に向き合う場面が繰り返し描かれます。「もう二度とあの人に会えない」そんな事実に打ちのめされた時、再び立ち上がるのに必要なものは何か? それこそ人や場合によって違うと思いますが、本作では「死にゆく人から託された使命」によって残された人は再起しています。例えば、ななちゃんの死を目前にうちひしがれる八津がクローンに

「大丈夫だって言ってななちゃんハカセを安心させろよ!」「そうだそうだ!」「お前が寝てる間ななちゃんハカセずっと頑張ってたんたぞ!」「ななちゃんハカセの遺志を継げるのはお前しかいないんだぞ!」「研究 僕も手伝うから!」

とハッパをかけられて肚を固めたように。

「先ほど『風刺てんこ盛り』と仰ってましたね?」

 元々作者のアボガド6は風刺画で有名なんですが、本作でもその本領はいかんなく発揮されています。AIを恐れた人間がロボットを襲撃していたり、戦争と汚染の元凶は人間だと判断して地球清掃ロボットが人類を殺し始めたり。このあたり、私は永井豪『真夜中の戦士』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)を思い出しました。機械の肉体と人間の感情を併せ持ったアンドロイドの命と尊厳を人間がもてあそぶ世界で、アンドロイドが反乱を起こす作品です。機会があればこちらもご紹介したいですね。
 メッセージ性や風刺以外にも、興味深い点がてんこもりですよ。

「聞いてるだけでワクワクしてきましたよ。例えば?」

 例えば、人間とロボットの関係が目まぐるしく変わる点です。しかも、そのいずれにも読んでいて共感するんです。ロボット自身も、初めは本当にただの機械なのですが次第に人間味豊かになっていきます。
 次に、ななちゃんと八津を育てたロボット・マザーの存在。マザーと人間の関係が、連作短編集『アマデオ旅行記』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)収録の「安全の国」に描かれた主人公とオムニの関係に似ていておもしろいです。またマザーは別作品『空っぽのやつでいっぱい』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)にも登場しており、本作以上に大きな役割を演じているようです。こちらはまだ読んでないので詳しくは分からないのですが。
 他にも地球清掃ロボットの名前HANAがおそらく八津の「はち」とななちゃんの「なな」に由来している点や終盤で密命を託されるクローンの個体識別番号がNO.8739、つまり「はなさく=花咲く」である点、先述した墓標の場面でロボット同士が向き合っているようにもともに墓標を見つめているようにも見える点、繰り返される「細かいことはいいじゃない」「あなたは一人だけよ」という言葉、ななちゃんのクーデレ(※)ぶりなど、興味深い点は挙げ出すときりがありません。

※クーデレ…日頃はクールでつっけんどんだけどたまに見せる人間味が魅力的な人物造形

 あと、これは私の想像ですが、作者は手塚治虫『火の鳥』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)に強い影響を受けているかもしれません。

 「と、おっしゃいますと?」

人間臭いロボットと人間との関係・滅亡寸前の地球・クローンといったモティーフが共通しているからです。もっとも、マンガ家含むクリエイターで『火の鳥』に影響を受けた人なんて珍しくもなんともないでしょうけど。

「そもそもアボガド6とはどういう人物ですか?」

 元々はPixivやTwitterで風刺画を発表していたらしいんですがそれが大変評判になり、マンガやボーカロイドによる音楽も手がけています。先に少し触れた『アメデオ旅行記』は人呼んで「令和の『ガリヴァー旅行記』」。ただジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)と大きく違って、アボガド6作品の根底にあるのは人間への冷徹な嫌悪ではなく「世界って今こんなだよね。でもさ、そんなのどこか間違ってない!?」という、ヒューマニズムに基づく切実な問題提起です。90年代日本のミュージックシーンを席巻したブランキー・ジェット・シティの名曲「ディズニーランドへ」「車泥棒」にも通じるものがあります。

「どんな曲ですか?」

 「ディズニーランドへ」は心を病んだ友人にディズニーランド行きを誘われるという曲で、「差別の心は自分の中にはあるし、たぶん君の中にもあるだろう。でも、そんなのおかしくないか!?」という痛烈な叫びです。一方の「車泥棒」にはこんなフレーズがあります。

スクラップ置き場で 崩れ落ちてきた車の 下敷きになったまだ目も見えてない仔犬のためには 誰一人 歌おうとしないクリスマスキャロル ネェ神父さん 何かが狂ってるとは思わないかい

「なにわt4eさんのご感想をお聞かせください」

 先ほども申しましたが、もう矢も楯もたまらずご紹介するほど『やさしさいっぱいの土の上で』には惚れこんじゃいましたよ。何年か振りでマンガを読んで涙が出そうになりました。ですが決して泣いて終わり・感動バンザイの作品ではなく、感動だけでは終わらない問題提起があります。表紙イラストをごらんください。

「いくつもの墓標が建てられた野原の道を少年と少女が楽しそうに駆けてますね」

  そうです。読み終わってから改めてこのイラストを見た時、私は墓標の大きな意味を痛感しました。よく「尊い犠牲の上に私たちの平和がある、感謝しよう」と言われますよね? 何故かこの言葉、私はどうしても虫が好かないのです。「彼らは過去の過ちの犠牲者だ。もうこんな犠牲者を出さないためにあなたたちはどう考え、何をするんだ?」そういう疑問をこれらの墓標が、楽しそうに駆ける少年と少女に、そして読者である私たちに突き付けている気がしてならないのです。

まとめ

 これは平和と共存を実現するために努力を重ねる者たちの物語ですが、それらは達成出来たらもうOK! というものではないことをも本書は伝えようとしています。風刺とはまず正確に現実を理解してこそ成り立ちます。その上でなお平和を望み、強い意志で平和を勝ち取り維持しようと語りかける本作は、さらっと描かれてはいますがパワーと感動に満ちた、21世紀の『火の鳥』です。

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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