『拳奴死闘伝セスタス』第10巻(技来静也)「『少し』でいいんだ 『少し』を重ねろ!」

目次

先にまとめから~才能か? 努力か?~

「努力で才能に勝てる?」
「努力は必ず報われる?」
 
 誰でも一度は悩む問題ですよね。
 この問いに直面したとき、あなたは努力を止めますか?
 それとも続けますか?

『拳奴死闘伝セスタス』第10巻では「天才」アドニスと「努力の人」カーメスが激突します。「勝敗を決めるのは才能か努力か」試合場で展開されるこの問いに、あなたならどんな答えを出しますか?

 他にも強打者ギデオンが怪力ロキに仕掛けた驚きの戦術や準決勝を見据えるセスタスの思いなど、拳闘士たちの生き方はあなたの胸に小さな、でも熱い灯火を灯すことでしょう。

 こんな方には特におすすめします。

・「自分って才能ないのかな……」と不安を感じている方
・そんな方を励ましてあげたい方
・「才能のある奴は苦労がなくていいよな」と思われてちょっと悔しい方

※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

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美濃達夫さんとの会話

「なにわt4eさん、なかなか伸びない人っているもんですね」

 どうなさいました美濃さん、やぶから棒に。

「私の部下で、他の者と比べると覚えの遅い人がいるんですよ。スキマ時間にノートをとって読み返したりしてるし、それを持ち帰って、もちろん機密情報とか個人情報とかに関わらない範囲ですけど、自宅でもおさらいしてるらしいんですが、進歩は正直言って遅いです。私もなんとか伸ばしてあげたいんですが」

 ああ、そういう方もおられるでしょうね。

「仕事は楽しいし早く身につけたいと言ってくれてるので全く不向きな人じゃないとは思うし、私も教えたりはしてますが、よく言えば着実、悪く言えばカメの歩みで」

 なるほど。でもそういう方ほど、後々化けるかもしれませんよ。

「私もそう思いたいですが」

 そんな方には『セスタス』の第10巻を読んでみていただきたいですね。

「と、おっしゃいますと?」

 まさに「天才」対「努力の人」の対決なんですよ。

第10巻のあらすじ

「ぜひお聞きしたいですね」

 最初はロキ対ギデオン戦の続きです。初めは圧倒的な体格とパワーでロキが攻勢をとってましたが、ギデオンが奇想天外な策を講じてロキを倒します。

 次はカーメス対アドニス戦です。カーメスはエジプトで大勢の弟子から篤く信頼される指導者であり、現役キャリアの集大成として参加していました。見るからに大ヴェテランという佇まいです。ちなみに渋い大人の男前。一方のアドニスはエチオピア人の楽団が奏でる音楽をバックに踊りながら入場するはしゃぎよう。若き天才と歴戦の勇士、対決の行方は?

試合の流れ

ロキ対ギデオン戦

第9巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)をご紹介いただいたときに『アッと驚く戦略』とおっしゃってましたね」

 そうなんです。それは「突きの引き際にロキの太ももを肘で刺す」というものでした。

「肘で!? それ、反則じゃないですか!?」

 古代ならではのゆるさでしょうか。これを繰り返されたダメージでロキは足をかばうため前かがみを強いられ、体格差は事実上ゼロになりました。そこからギデオンがたたみかけ、最後にロキを気絶させて勝利しました。

「拳闘として正当な技かどうかはともかく、機転は利いてますね」

 そうですよね、観戦していたデモクリトスもギデオンの勝負勘を「荒削りながら 一級品の煌めきありか」(第2章 第80話「勝者の嗅覚」)と絶賛しています。もっともロキもロキで、すぐに平気な顔で目を覚まして「続けるぞ さあ来いッ」(同)と叫ぶんだからスーパータフガイです。

「……(絶句)」

カーメス対アドニス戦

 第10巻はこれが見せ場と言っていいでしょう。美濃さんの部下さんにも読んでみていただきたい対戦です。

「先ほどおっしゃった『天才』対『努力の人』の対決ですか?」

 そうです。後で詳しく触れますがカーメスはどんくさい人がたゆまぬ努力で強くなったタイプ、アドニスは天賦の才を臆面もなく誇るタイプです。で、試合展開ですが、アドニスの速射をカーメスがかわしつつ勝機を探りますが次第にアドニスに圧倒され始めます。やがてカーメスが一矢報いたかに見えたものの、すでに身動きとれないほどのダメージが蓄積してしまってました。諦めるかカーメス? しかしカーメスはこの土壇場で不屈の闘志を見せ……。

 なおこの試合ではアドニスのファイトスタイルがこんな風に分析されています。

高精度の基本技を 感性の赴くままに繋ぎ織り成す が乗った時の連打はまるで── 天才楽師の「即興演奏」そのもの!(第2章 第84話「脱力と瞬発」、傍点は原文のまま、以下同じ)

「土台はきちんとしてるということですか」

 ええ。

カーメス──努力の人、懐深い指導者、あくなき探求者

 実は私、この第10巻を読んでカーメスの大ファンになりました。

「どういうことですか?」

 自分には才能がないと悲観して拳闘を諦めようとしている弟子に、カーメスは「俺は同期の中で最も覚えの悪いグズだった」と明かし、こう続けます。

要領の良い奴というのは 高を括り 諦めるのも案外早くてな 「壁」にぶつかった場合も 粘り強く乗り越えて化ける●●●のは むしろ俺のような不器用な奴なのさ
「少し」でいいんだ 「少し」を重ねろ! 「少し」の累積が 窮地で背中を押す底力になるのだ!(第2章 第85話「才能の正体」)

「それが先ほどおっしゃった『そういう人ほど後々化けるかも』ということですか」

 そうです。私自身、カーメスのこの言葉に何度も勇気づけられてます。そして努力を訴えるだけじゃなく、カーメスは指導者としてとても懐の深い人物でもあるんです。

「と、おっしゃいますと?」

悔しいけど自分には才能がないと拳闘を諦めかけた弟子に、それなら才能とは何だとカーメスは尋ねます。答えに窮する弟子にカーメスはこう言葉をかけました。

ろくに即答も出来ないもの●●を口実にして おまえは逃げるのか?(同上)

「なかなか手厳しいですね」

 そうではありますが、この時カーメスの表情は厳しくも思いやりに満ちています。そして

さあ立て 俺のもとに来たのは 「弱い自分」が許せないからだろう?(同上、ふりがなは原文のまま、以下同じ)

と自分の胸中をくみ取ってくれるカーメスに心を動かされ、弟子は修行に戻りました。そんなカーメスだけあって他の弟子たちからも篤く信頼されていることが、大会出場に向けて出立する場面からうかがわれます(第2章 第82話「導師の出馬」)。

 さらにカーメスは指導者として優れているだけではなく、極めて強い探求心の持ち主でもあります。

格闘技は 終わりなき学究●●だ! 一つ真理を知る度に 更なる高みが垣間見え 際限きりがない… 理想は遥か── 年季を重ねるほど遠ざかるばかりだ 指導者ならば尚貪欲に 学び続け●●●●なければ届くまい(同上)

「格闘技を『学究』と呼ぶところがおもしろいですね」

 それだけ拳闘を科学的・体系的にとらえているんだと思います。努力家であり、優れた指導者であり、貪欲な探究者でもあるカーメスに心をわしづかみにされた読者は私だけではないでしょう。

「で、カーメスは窮地に追い込まれるようですが……」

 そうです。アドニスの度重なるボディブローで肋骨を折られ呼吸もままならなくなりました。ですが、ここからがカーメスの偉大な点です。

「偉大な点?」

 そうです。カーメスは絶望の淵に落ちそうになりますが、

…まだだッ! 恥だの屈辱などどうだっていい… ここで諦めたらどのツラ下げて 教え子に顔向け出来る?(第2章 第86話「不屈の挙手」)

とおのれを奮い立たせました。

「……弟子たちを失望させるまいとしたんでしょうね」

 ええ。指導者としての誇りというより弟子たちへの深い愛情と考えた方がいいかもしれません。いずれにしろ、アドニスもそんな不屈のカーメスを

そう来たかぁッ いいねぇあんた!(同上)

と称賛し、敬意を表して全力で倒す決意を固めました。

アドニス──実は才能だけじゃない

「対するアドニスですが、確か第6巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)についてお聞きした時に『陽気なナルシスト』とおっしゃってましたね」

 よく覚えてくださってましたね。アドニスは軽薄なお調子者に見られがちで、実際そういう面はありますが、まんざらそればかりでもありません。例えばアドニスが試合中に笑顔を浮べたり鼻歌を歌ったりと、相手からすれば「なめてんのか」と思うような振る舞いをするのも、無駄な力みを抜くための真剣な行為です(第2章 第84話「脱力と瞬発」)。 人間性を見ても

・自分なりの文化論を披露できる知性(第2章 第81話「二つの文化」)
・ニコラウスに対して見せたある種の思いやりや洞察力(第2章 第45話「茨の坂」
・「自分の人生をちゃんと自分で開拓したい」思い(第2章 第9話「祭の前に」)
・カーメスの折れない闘志を正面から称える潔さ(第2章 第86話「不屈の挙手」)

といった点から、彼なりに人生を真剣に生きていることがうかがわれます。

「才能にあぐらをかくような人物ではない?」

 ええ、全く違います。その辺は後々改めて描かれますが、「拳闘を通じて人生をひたむきに生きている」点でカーメスとアドニスは似ていると思います。

セスタスの不安

 話をロキ対ギデオン戦に戻します。もともとセスタスはこの試合を「どちらが勝ち進んでも怪物相手には違いない!」(第2章 第72話「最北の樵(きこり)」)と考えていましたが、準決勝の相手がギデオンと決まって更なる不安を抱きます。

破壊力も耐久力も オレより数段上 先生の評価も同じはず オレの優位は一つだけ 「速さ」だけで対抗出来るだろうか? 今のオレなら打ち合える自信はある それでも相打つ展開になった場合 きっと先に壊れるのは………(第2章 第80話「勝者の嗅覚」)

「セスタスからすれば一発受けるだけでも致命傷になりかねないわけですからね」

 おっしゃる通りです。この不安が次第にセスタスをむしばんでいくのですが、そこは第11巻を待ってください。

「また気を持たせるんですから……」

なにわt4eの感想

「なにわt4eさんの感想をお聞かせください」

 第10巻は何と言ってもカーメスに目を奪われました。一回戦では皇帝ネロと総督トレビウスが繰り広げる暗闘の影に隠れてどんな人物か全く分かりませんでしたが、この巻を読むとカーメスが物語の登場人物というより尊敬すべき先人に思えてきました。

 また出立の際、弟子たちにカーメスはこう語りました。

「失敗を恐れず果敢に挑め」 おまえ達に再三伝えて来た言葉に 俺自身が従う時が来たのだ(第2章 第82話「導師の出馬」)

あれこれ言うだけでなく自らその言葉を守る率先垂範の姿勢にも、私は感銘を受けました。

 そして繰り返しになりますが、対するアドニスも決して才能頼みではありません。先ほど少し引用しましたが、「高精度の」基本技というくらいだからアドニスは基本も徹底的に修練しているはずなんです。

「『何事も基本が最も難しい』ってよく言いますしね」

 そうです。第1シリーズ『拳闘暗黒伝セスタス』から長期的に登場している人物だからでしょうけど、アドニスはその本質が徐々に明らかにされてきてますね。

 次の第11巻でカーメス対アドニス戦は決着がつきます。構図としては「努力が勝つか才能が勝つか」の試合ですが、カーメスが勝ったら「努力の勝利」、アドニスが勝ったら「才能の勝利」という単純な話ではありません。むしろ決着した二人の行く手に何があるのかを見つめてこそ、二人の闘いを見届ける意義があるのだと、私は考えています。

「……私も先ほどお話しした部下を、若き日のカーメスと思って指導することにします」

 お役に立てたようで何よりです。

(ブログ管理者より:私もカーメスの「『少し』でいいんだ 『少し』を重ねろ! 『少し』の累積が 窮地で背中を押す底力になるのだ!」という言葉に励まされてこのブログを続けております)

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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