先にまとめから
お待たせしました、『拳奴死闘伝セスタス』第2巻のご紹介です。二つの拳だけを頼りに自由を求めて戦う少年セスタス。この巻ではセスタスの試合は描かれずコンコルディア闘技祭本番へのインターバル的な巻ですが、強敵との語らい、個性豊かな出場拳士、ライヴァル・ルスカとの再会、時に交えられるユーモアなど、相変わらず読みごたえは満点!
拳闘アクション漫画としても一級品、人間ドラマや人生論としても一級品の本作をどうぞお楽しみください。
※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、『拳奴死闘伝セスタス』の1巻(←本ブログの紹介記事へ飛びます)読みましたよ」
読んでくださったんですか? 嬉しいですね。どうでしたか?
「ものすごくおもしろかったです! と言うより、おもしろいなんていうありきたりな言葉じゃ追いつきません」
そうでしょう(笑)、生半可な作品じゃありませんからね。
「ただ、なかなか本屋さんでは見つからなくて入手には苦労しました。段ボールとか梱包材の処分が面倒なので、ネットショッピングはあまりしないんです」
確かに、本屋さんで見かけることは少ないですね。
「そんなわけで、2巻についてお聞きしたいんです」
分かりました。2巻はいわば予選と本戦のインターバルで試合は1試合だけ、それも主人公セスタスの試合ではないんですが、見どころは満載ですよ。
第2巻のあらすじと見どころ
まずはあらすじからお話ししましょう。第2巻はフェリックス戦の翌朝、セスタスが自分の血尿を見て顔面蒼白になるところから始まります。心配ないから2~3日は訓練を休めとザファルに指示されてぼんやり過ごすセスタスをフェリックスが訪ねました。フェリックスの激励で胸に火を灯したセスタス。セスタスたち一行はコンコルディア闘技祭の会場、シチリアの港町シラクサへ向かいます。出場拳士の一人アドニスが出場をめぐり因縁をつけられて急遽予選が組まれる場面、セスタスとルスカが再開する場面を挟んで、いよいよ出場拳士16人が勢ぞろい。大会の行方は?
拳闘部門の精鋭たち
闘技祭会場となるシラクサで出場拳士たちの組み合わせ抽選会が行われますが、この面々が実に個性豊かです。
「例えば?」
図抜けた巨漢のロキがいるかと思えば「本当に出場拳士?」と思いたくなるやせっぽちのイオタがいたり、他には見るからに忠臣という佇まいの(実際そうです)マレク、アフリカの狩人ムタンガ、超の字が3つつきそうな凶悪犯罪者アブデロス、などなど。かつてセスタスと死闘を繰り広げた偏屈者のエムデンやルスカの同僚であり神がかった反射神経とスピードを誇るアドニスもいます。
「それなりに因縁のある相手も出場するんですね。その因縁がどう展開するのかもおもしろそうです」
期待が膨らむでしょう? また本作は芸の細かさ・時代考証の確かさでも定評がありますが、この場面にもそれがあらわれています。
「どういうことですか?」
出場拳士の一人エルサレムのギデオンが「属州ユダヤ出身」と紹介されるのですが、ここでギデオンは司会者の胸倉をつかんで
「属州ではないぞ! ユダヤ王国だ 『イスラエル』でもいい 大事な問題だ 二度と間違えるなよ!」(第2章 第6話 三十二の拳① 傍点は原文のまま)
と詰め寄るんです。そしてそれを見た観客も
「こういう催しにユダヤ人が参加するとは驚きですなぁ…」(同上)
と漏らします。この時代ユダヤ人は自分たちの王国を失ってローマ帝国に支配されていました。しかし皇帝を神として敬うことは「ユダヤ民族の神に対する冒涜」として拒否し、ユダヤ王国の再興を目指していたんです。
「それがギデオンの怒りや観衆の驚きにつながっているわけですか、確かに芸が細かいですね」
ルスカとの再会
もしかするとここが第2巻最大の見どころかもしれません。
「第1巻の時も名前が出ましたが、ルスカと言うのはどんな人物ですか?」
詳しくは第1作『拳闘暗黒伝セスタス』で描かれていますが、セスタスのライヴァル的人物です。元々は友人同士でしたが、ある事件が彼らの友情に影を落とします。加えて二人とも心根のまっすぐな若者ですが、ルスカは権謀術数渦巻く世界に身を投じセスタスは愚直に戦い続け、という生き方の違いも二人の距離を生んでいます。
君は全然変わっていないようだな! まるで自分だけは傷つかず 汚れてすらいないとでも言いたげに見えて… 少しばかり腹立たしさを覚えるよ(ルスカ)
奴隷の苦悩は奴隷にしか解らないよ 変えられない辛さも同じさ 君と違ってオレは… 拳の世界しか知らないんだ!!(セスタス)(第2章 第5話「交差点」 ふりがなは原文のまま、以下同じ)
「かつては友人同士だった二人の言葉がそれ、というところに二人の人生行路を感じますね…」
美濃さんのおっしゃる通りです。しかし、ナレーションでこう語られるようにそれすら彼らの成長を物語っているのかもしれません。
少年期とは立ち止まれぬ激動の季節 前進せよ 「何者」かに成らんが為変わりゆく運命の子らよ(同上)
もっとも、先を読み進めると分かりますがルスカはセスタスの勝利や進歩を楽しみにしている節もあります。
「なかなか複雑ですね」
ええ。そうした人間模様・人間観察の複雑さも本作の魅力です。
セスタスの葛藤
試合がほとんど描かれないせいか、第2巻はセスタスの葛藤にかなり重点を置いています。例えば血尿が出て訓練を休む場面では、こんな堂々巡りめいた思いを巡らします。
唯一の報いは勝利の瞬間 耐え忍び獲得した達成の歓喜 「世界」に愛され祝福されるあの高揚感 でも それは一瞬 熱が冷めたら残るものは 傷の痛みと虚脱感だ (中略) もしもこの拳を失ったらオレは どうやって生きてゆけばいいんだ……!?(第1章 第13話「爪痕と共感」
「こう言っては何ですが、そんなことを考えていてはとても闘技祭を勝ち抜けないのでは?」
ええ、セスタスも取り組み抽選会の後でこう決意を新たにしています。
オレだって今まで闘う度に 傷つき汚れてきたんだよ ルスカ…! (中略) 今さら辞退なんて出来るかよ もう 突き進むしかないんだ!!(第2章 第6話 三十二の拳②)
「…傷とか汚れとかいう言葉が、先ほどのルスカの言葉と呼応してますね」
あ、本当ですね。
「そう考えると、ルスカとの再会を経たからこそその決意に至ったのかも…」
確かに、そんな気がしてきました。さすが美濃さん、お見事な洞察です。本当に深い作品だなあ…。
強敵との「共感(シンパシィ)」
第1巻でフェリックスにセスタスは辛勝しました。その翌日フェリックスがセスタスのもとを訪ね、二人はしばし語らいます。命がけで傷つけ合ったばかりの者同士とはとても思えない朗らかさで。
死力を尽くし魂で鎬を削り合った両雄同士にしか 決して抱き得ないであろう それは強烈な「共感」である(第1章 第13話「爪痕と共感」)
そしてフェリックスは内省しがちなセスタスを激励して去り、セスタスもそれに応えます。ここは本当にカッコいいですよ!
他に、ザファルがセスタスたちに「打法の極限」を披露する場面もカッコいいです。本当にあれが可能かどうかは分かりませんが、とにかくしびれました。
「どんな打法なんですか?」
ははは、それこそ読んでのお楽しみですよ!
感想
「なにわt4eさんは第2巻を読んでどう思われましたか?」
セスタスとルスカの生き方が交差する場面は第2巻随一の名場面ですね。生きるとは、成長するとはこういうことかと思い知らされた気がします。舞台や物語はまったく違うものの、私が愛してやまない作品『ブラッド・イン、ブラッド・アウト』を思い出しました。本ではなく映画ですが、機会があればこちらもご紹介したいです。
出場拳士も多士済々、読み進めるとさらによく分かるんですがこれだけ様々な背景や人物像をよく描き分けられるものだと驚きます。第3巻以降の本戦に向けて、いやがうえにも期待が高まりました。
そしてやはりセスタスの魅力ですね。迷ったり不安に押しつぶされそうになったりしつつも拳を固めるセスタスの闘いを、固唾をのんで見守らずにはいられません。
「…明日からは2巻を探して本屋さんのハシゴになりそうです」
本屋さんのハシゴは大変ですが、その価値はありますよ。
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