下関崇子『闘う女。』─心が少し軽くなる本─
「自分はこれと言って成しとげたものがないんじゃないか?」
「自分の人生、こんな調子でいいのかな…」
あなたがいわゆる社会人なら、一度はこんな風に考え込んだことがあるんじゃないでしょうか? 特に女性は昔と比べて、例えば昭和と比べて格段に生き方が自由になった反面
・育児とキャリアの両立
・自分もしくは配偶者の両親の介護
など色んなものがのしかかって、よけいにお悩みかも知れません。
そんな悩みが一冊の本で少し晴れて「私、がんばってんじゃん」「自分みたいな生きかたもOKだよね」と思えるとしたら、あなたはどうしますか?
著者・下関崇子氏はテレビ番組の制作会社に勤めていましたが、タイに渡ってムエタイ戦士となりました。ただ、鋼の意志とたゆまぬ努力で夢を叶えたというよりは、いろいろ悩んだり迷ったりしながらもいつの間にやらタイのリングに立った方です。
ここではそんな下関氏の真剣だけどゆるい生きかたを、タイのごはん事情やムエタイとキックボクシングの違いとあわせてご紹介します。
この記事を読んで、さらに続けて『闘う女。』を読めばあなたは心が少し軽くなって、「がんばってんなあ、自分!」と自分の肩を叩いてあげたくなるでしょう。自己肯定感を今より少しアップしてくれる本書の世界へ、一緒に飛び込みましょう!
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「……」
美濃さん、どうされました? ずいぶん浮かない顔をされてますね。
「実は先日、久しぶりに高校時代の友人同士で集まって飲んだんです」
旧交を温められたようですね。
「ええ。それはいいんですが、起業して社長になってるやつがいたりイラストレーターとして独立して細々とだけど食っているやつがいたりで、彼らと比べると自分は何やってるんだろうと思いました。それなりに部下もいて取引も任されてはいるものの、特に目標も夢もなく何となく生きて来ちゃったんじゃないだろうか…と」
そうだったんですか、そんな風に思うことってありますよね。ただそう言うのって、人がやってることの方が大きく見えたり立派に見えたりしやすいだけじゃないでしょうか。
「そんなもんですかね?」
美濃さんご自身からしたら意外かもしれませんが、人が美濃さんのお仕事を見たら「すごいことやってるなあ」と思うでしょうね。そもそも、取引先の方に楽しくお話ししていただくためにわざわざ私にいろんな本のことをお尋ねなんでしょう? 素晴らしい努力だと思いますよ。
「そう言っていただけると気持ちが少し楽になります」
ちょうど下関崇子『闘う女。』という本を再読したばかりなんですが、美濃さんにとっても興味深く読んでいただける本だと思います。お話ししましょうか?
「ええ、ぜひお聞きしたいです」
『闘う女。』の概要
著者の下関氏は会社勤めから格闘家に転身された方です。ちなみに現在ムエタイを引退し、タイ料理の研究家として精力的に活動しておられます。
下関氏はTV番組の制作会社で働いていましたが28歳の誕生日、ダイエット目的でキックボクシングを始めます。ダイエットや健康づくりを目的とした、ちょうど美濃さんがやっておられるボクササイズのキックボクシング版と言えそうなコースです。ところがキックボクシング自体は楽しいもののレッスン後の飲み食いでプラスマイナスゼロ、というよくあるパターンでダイエットははかどりません。そこで、いっそ試合に出れば嫌でも痩せざるをえなくなると考えて下関氏はアマチュアの試合に出ました。それを振り出しに、ジムから試合を組まれたりプロテストを受ける羽目になったり、さらには友人を訪ねたタイでムエタイのリングに上がったり、いつの間にやらムエタイ戦士いっちょう上がり…という奮戦の経緯をつづったのが本書です。
努力と結果が比例するもの
「会社員から格闘家へ転身と聞いて一大決心とか必死の精進とかを連想しましたが、ちょっと違う雰囲気ですね」
ええ、どちらかと言うとなりゆきや好奇心のなせるわざという感じです。
たとえていうなら、気が向いたときにクッキーやパウンドケーキを作って「おいしいねぇ」と友達に褒められる程度だった私が、いきなりミシュランの三ツ星レストランのパティシエにまじり修行しろ! そして来月にはコンクールに出品だ! と宣言されるようなものだ。(P.60)
「どうしてキックを始めたか」と聞かれれば、痩せたかったから、と答えるけれど、「どうしてキック(ムエタイ)を続けているの」と聞かれれば、止めてくれる人がいなかったから、としか答えようがない。(P.278)
とは言え下関氏は流されるままに生きているわけではなく、自分がキックにのめり込んだ理由をこう分析しています。
仕事にしろ、恋愛にしろ、努力が報われないことのほうが多い。(中略)努力と結果が比例するものがしたい。だから、キックにはまっていったのかもしれない。(P.33)
「身につまされるものが、ないとは言えませんね」
同感です。試合を控えているのに減量が追い付かずフラフラになりつつもなんとか計量をパスしたエピソードが紹介されてるんですが、これも「努力と結果が比例するものがしたい」からこその努力でしょうね。計量パス直後のこんな記述からも必死さがうかがわれます。
なんとかクリアし、いざ計量すると、体重は六一・八キロ。跳び上がって喜んで、ジムの仲間のところへ行き、コンビニで買ったミネラルウォーター一・五リットルを一気飲みする。
砂漠の砂が水を吸い込むように身体中に流れていく。そしてヴァレンタインデーを過ぎて半額で売っていたマキシム・ド・パリのトリュフチョコレートを鞄を引っかき回して取り出す。計量後に食べようとずっと前に買っていたものだ。包みをほどくのももどかしく口にほうりこむ。あまりの美味しさに二つ目をとる手が震えた。
多分、死ぬ間際に、生涯で一番美味しかったものを想い出すとしたら、この計量後のチョコレートにちがいない。(P.42)
本当にあなたは何もないの?
でも、“自分には何もない”という人は、本当に自分には何もないの? って疑問に思う。女だって三十歳近くになれば、誰だって“何か”あるはずだ。(P.161)
そう言って下関氏はジム仲間が、例えば編み物の腕前が師範クラスだったり栄養士だったりタイのマッサージとタイ語を学んでいたり、という例を挙げています。あなたも“何か”あるんじゃないの、と。
「それ一本で今すぐにでも食っていけるようなものでなくても、ですか?」
だと思います。言い換えれば「あなたの人生はすでに何か実りがあるはずだよ」と言うことだと、私は解釈してます。
「…自分の人生で実ったもの、と考えてもすぐには浮かんできませんが、何かあると思うと自分を少し肯定できる気がしますね」
タイのごはん事情
また、この本で紹介されているタイのごはん事情も興味深いんです。
「どんな感じですか?」
例えばバンコクではあまり自炊と言う習慣はないらしく、屋台でおかずを買って家で食べるスタイルが一般的だそうです。もっとも、都市ガス設備が普及してないせいかもとも書かれていますが。ここで紹介されているおかずはカボチャの甘い煮つけ、ニガウリの豚ひき肉詰めの薄味スープ、ガイパローという豚肉と厚揚げと卵の煮物、春雨の中華風炒め…。(P.219~220)
また遠征先のイサーン(タイ東北部)では生肉と香味野菜と唐辛子系のたれで和えたラープ・ディップをもち米と一緒に食べたり(P.246)炭火で焼いてバターと砂糖を塗って表面を焦がしたトースト「カノン・パン・ピン」にはまったり(P.253)、下関氏自身が食べるのが大好きと語っているだけあって(P.32)ごはん事情も詳しく書かれていますよ。
「聞いているだけでおなかが減ってきました」
ははは、そうでしょう? 私もここを読むたびにおなかが減ります。
ムエタイとキックボクシングの違い
「そう言えば下関氏はキックボクシングを始めてムエタイ戦士になった、ということでしたね。ムエタイとキックボクシングの違いって何ですか?」
細かく論じだすと長いので大ざっぱなことを申しますと、
A(技術的な違い):
・ムエタイ→首相撲(※)や肘打ち・膝蹴りがある。
・キックボクシング→どれも禁止されていることが多い。
B(試合に対する考え方の違い):
・ムエタイ→体にダメージが残りにくいようにルールや試合運びが工夫されている。
・キックボクシング→相手にダメージを与えて倒すことを至上命題としている。
という違いがあります。Aはキックボクシングが実は空手から生まれた格闘技であることと関係があると思います。Bについて言えばムエタイはタイでは賭けの対象でもあり、芸術として観客を魅了するものでもあることに加えて、選手はムエタイで生活しているので短いインターバルで試合を繰り返していることが背景にあります。(P.241~242)
下関氏はこんな風に要約しています。
キックボクシングは完膚なきまでにぶちのめし、真に強い男は誰かを追求するが、ムエタイは、職業としてのスポーツだ。(P.243)
もちろんそれはムエタイが八百長とかイカサマとか言う低次元の話ではなく、格闘技としてのあり方が違うということです。ムエタイ戦士の強さについては疑問の余地はありません。
※…相手の首根っこを押さえて、転ばしたり膝蹴りを入れたりする技術。
感想
「なにわt4eさんは『闘う女。』を読んでどう思われましたか?」
美濃さんを励ますためにご紹介したかっこうですが、私自身もこの本には励まされてきました。下手な自己啓発本よりはるかに勇気づけられます。
注文通りではない人生が出てきてしまった。
後楽園でプロデビューなんて、それこそ、こんなもの頼んでないよっ、とテーブルごとひっくり返したい気分だった。だけど、今の生活は楽しい(味はおいしい)から、それでいいんじゃないか。重要なのはおいしいかマズイかなのだ、きっと。(P.165~166)
こんな下関氏の生きかたを読んでいると「自分みたいな生きかたでもいいんじゃないか、自分もけっこうがんばってるじゃないか」と思えるんです。また、先に触れた「努力と結果が比例するものがしたい」など共感できるところも多いんですよ。下関氏がお気楽一辺倒ではなく根っこのところでは人生を真剣に考えているからでしょう。
他にも、食いしん坊の方にはタイのごはん事情に関する記述はとてもおもしろいでしょうし、格闘技好きな方にとってはムエタイやキックボクシングに詳しく触れているところも興味深く読めるでしょう。
手軽に読めて心が少し軽くなって、情報量も豊か。美濃さんにぜひお読みいただきたい本です。
「ありがとうございます。お話を聞いているだけでも気持ちが楽になりましたが、本も探してみます」
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