先にまとめから~仕掛け満載で心を揺さぶる、2025年本屋大賞ノミネート作~
この記事をお読みのあなたにおたずねします。小説って何でしょう? 私たちはどうして小説を読むんでしょう? 改めて考えてみると、答えに詰まってしまいますね。2025年本屋大賞ノミネートの本作、野崎まど『小説』はこの問題に壮大なスケールとていねいな感情表現で肉迫する傑作です!
本作を読めば、あなたは
・「小説って何だ?」=「小説のおもしろさって何だ?」を再発見し、
・メタフィクションの楽しさを満喫し、
・内海と外崎の友情物語・運命の交錯、そして最後に彼らがたどり着いた救いに胸を打たれる
でしょう。こんな方には特にオススメです。
・手の込んだエンターテインメントが好きな方
・本の中でもとりわけ小説が好きな方
・「そもそも〇〇って何?」とイチから考えるのが好きな方
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、取引先の方からお聞きしたんですが『小説』っていうタイトルの小説があるんですね。そのまんまというか、あまりに人を食ったタイトルなので驚きました」
ああ、ありますね。私もあのタイトルは二度見しましたよ。それで興味を感じて読んでみたんですが、「小説とは何か、どうして私たちは小説を読むのか」をとても真剣に考察した作品でした。タイトルで興味をあおるだけじゃなくて読み応えがあるし、一筋縄ではいかないユニークな作品です。
「詳しく教えていただけますか?」
あらすじ
小学六年生の内海集司は、上昇志向が強く教育熱心な父親を喜ばせるために五歳で読書を始め、すでにいっぱしの読書家でした。同学年の外崎真は彼との出会いから読書に導かれます。二人は年齢も名前も分からない小説家の屋敷・通称モジャ屋敷に入り浸って読書三昧。その小説家のことは伸び放題の髭にちなんで髭先生と呼んでいました。
長じて二人は29歳のフリーター、内海は書店でバイトをしながら外崎の世話を焼いて「小説を書け」とけしかけ、外崎もバイトのかたわら小説を書く毎日を送っていました。読む一方の自分と違って外崎には度外れた文才があると、内海は見抜いていたのです。めでたく外崎は新人賞を獲得し内海もそれを心から祝福しましたが、内海は書かないのかと外崎が何気なく尋ねたことから二人の友情にひびが入ります。 その翌日外崎は失踪、手掛かりがあるかもと思って内海は髭先生を訪ねましたが彼も失踪していました。外崎に謝りたい一心で二人を追う内海の向かった先はなんとアイルランド。そこで非現実的な体験をしつつも内海は外崎と再会を果たします。この再会によって内海と外崎がたどり着いた救いとは?
「小説ってなんだ?」
本作の一番特徴的な点は、これが「小説とは何か?」を考察した作品だという点です。
「小説とは何か、それを小説の中で考えるわけですか」
はい。しかもそれを考察するためにあろうことかビッグバンにまでさかのぼっています。
「ビッグバンにまで!?」
驚かれたでしょう。詳しくお話しすると長くなるので端折りますが、外崎と髭先生を探して色々な関係者と会う中で内海は5つのことを学びます。
・宇宙について
・生命について
・人間の欲しいものについて
・嘘について
・意味について
そして最後に内海と再会した髭先生はそれらを総合して、どうして小説が生まれたのか、小説とは何かを内海に語ります。ここだけ読んでも分かりにくいとは思いますが、完全に説明してしまうとネタバレになりかねないので結論だけでご容赦ください。
世界は集まって意味を増やしてる。
人の心も意味を増やしてる。
嘘をついたら意味を増やせる。
意味を増やすための嘘。
外に出した意味。
外に出した嘘。
それが
“小説”なんだ(P.208~209)
「それは、この『小説』における答えということですよね?」
ええ、そう考えていいでしょう。「小説とは何か?」の答えはいくらでも考えられますし、それを考えるのもまたおもしろいわけですから。
メタフィクションの楽しさ
「メタフィクションって何ですか?」
一言で言うと「フィクションについてのフィクション」です。例えば、登場人物が「さて読者の皆さん」と読者に話しかける・「××」という作品の中でその「××」が紹介される・小説が小説をテーマにすると言った具合に、作品・読者・登場人物・現実世界の間にある境目を意図的に操るようなフィクションです。
「具体的にはどんなものがあるんでしょう?」
例えば、マンガの作画が雑な場面で登場人物が「ほら、作者がいま手を抜いちゃったから」と言うような演出があるでしょう?
「ああ、ありますね。あれもメタフィクションなんですか?」
ええ。他にも、いわゆる劇中劇もありますし、スタニスワフ・レム『完全な真空』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)は実在しない書物に対する書評集です。イタロ・カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)にいたっては「あなたはいまイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」という一文で始まります。
「そんなの読むと『えっ、何これ!?』って思いますね」
そうですよね。そういう、驚き・知的好奇心を刺激されるおもしろさ・人を食ったようなアイデアの楽しさ、などがメタフィクションのおもしろさです。
「で、『小説』は小説をテーマにした小説という意味でメタフィクションということですか?」
そうです。しかもそのテーマを考察するためにビッグバンやら量子論やらを持ち出すわ、内海をアイルランドまで行かせるわ、税理士や刑事まで引っ張り出すわの大騒ぎ。考察のスケールが大きいうえに主人公を引きずり回して大冒険をさせるところも本作のおもしろさです。
加えてもう一つ、物語のラスト近くにもメタフィクション的な仕掛けがあるんです。
「それは読んでのお楽しみ?(笑)」
ははは、そういうことです。ただヒントとして、本屋さんが関係しているとだけ申し上げましょう。
内海と外崎の友情物語・運命の交錯、そして救い
内海と外崎はある種の凸凹コンビです。
・内海:
幼少期から本の虫。
知識や常識、生活力が比較的豊か。
読んで内面に貯えたものを外に出す=書くことが、不可能に近いくらい苦手。
・外崎:
教科書以外ほぼ読書経験ゼロ(内海と知り合うまで)。
思慮なくものを言ってしまう傾向があり、生活力に乏しい。
際立った文才の持ち主。
自然と彼らは「はまることには図抜けた力を発揮するがそれ以外はからっきしの外崎を、書くこと以外は無難にこなす内海がサポートする」関係になります。そして高校生になって外崎は、髭先生の取材に同行したことで自分も小説を書く決心をしました。
「内海君」
外崎は光を見たまま呟いた。
「俺」
「うん」
「小説が書きたい」
内海集司は頷いた。外崎が決めた。そして内海も決めていた。内海は外崎の書く小説を読もうと思った。これからずっと、外崎の小説を読もうと思った。(P.113)
外崎の作品はめでたく新人賞を獲得します。祝賀会の帰り外崎と内海は公園で宴を開きますが、そこで外崎が内海は書かないのか、と何の気なしに尋ねたことで彼らの関係にひびが入ります。
「どういうことですか?」
実利第一で上昇志向が強烈な父親の呪縛でしょうか、内海はずっと苦しんでいました。自分は読む一方でそこから外に生産的なものを出せないという事実に。
「そこに外崎の言葉が刺さってしまった?」
そうです。もちろん外崎には何の悪意もなかったし、内海もそれは分かっていましたが。
内に溜め込んだものを短くまとめて書け。人生をかけて構築してきた自分自身を式にして答えを導け。紙に文字を書け。創れ。産み出せ。“お前の精神に貸したものを、現実に返せ”。(中略)心が豊かなことは素晴らしいと誰もが嘯く。(※ただし現実で結果を出せる場合に限る)という注意書きを伏せて。(P.105)
俺が書きたいと言ったか。(中略)小説を読んで何かをしたいと言ったか。(中略)読むだけじゃ駄目なのか(P.135~136、傍点は原文のまま)
「…すれ違い、と言うやつですね」
ええ。そして内海が目を覚ますと隣室に住んでいるはずの外崎は姿を消していた。何か知っているかもしれないと思って髭先生を訪ねると、髭先生もいなかった。外崎に謝りたいと願う内海はアイルランドに渡りますが、なぜアイルランドなのかは本書に譲ります。ともあれそこで幻想的な体験の末、内海は外崎と再会を果たします。そして彼らは互いを、自分を赦すに至りました。
とてもおもしろいことに、二人がたどり着いた救済は「小説とは何か?」の答えとも密接に関連しています。
内海集司は小説に肯定され、そして初めて自分で自分を肯定する。生きていけると思った。この世界で、これからも小説を読み続けられる歓びに満たされていた。(P.211)
「小説の本質にメタフィクション、そして救済とはずいぶん壮大な作品ですね」
そうなんです。そもそもこの作品、登場人物の心が揺らぐ様子もさらっとですがていねいに描かれています。ここも見逃せない魅力ですね。さっきのすれ違いやそこからの和解がいい例ですし、もう一つ例を挙げれば折り紙です。
「折り紙?」
髭先生は田所という税理士に資産管理を一任、と言うか丸投げしてます。田所は離婚しているのですが娘の美羽と定期的に会っています。ある時の面会で美羽は田所に贈るつもりで折り紙の小さな花束を持参していたのですが、美羽はうっかりそれを強く握ってつぶしてしまうんですね。泣きじゃくる美羽を田所は平気だよと言って励まします。
その折り紙には意味がある。贈った望月美羽にとって意味があると同時にもらった田所家蔵にとっても意味がある。両方を合わせ、またそれ以外の、花束、折り紙などに関する意味をも全て合わせたもの、それが美羽の持ってきた折り紙に含まれる意味の総量となる。(P.86)
「ああ、そういう感覚には私も覚えがあります…待てよ、少し前になにわt4eさんがおっしゃった、内海が学んだ5つのことに『意味について』というのがありませんでしたか?」
さすが美濃さん、その通りです! 実はこの場面、親子の心情を描くと同時に「小説とは何か?」への伏線にもなってるんですよ。
感想
「なにわt4eさんは『小説』を読んでどう思われましたか?」
主な魅力を3点お話ししましたが、それぞれがおもしろいのはもちろん、バラバラではなく一つにつながっている点に驚きました。内海の葛藤、外崎との和解、二人の救済、髭先生の正体などが「小説とは何か?」につながっていて、しかも最後に描かれるメタフィクション的な仕掛けがその仕上げになっているんです。
「何だか複雑ですね」
かなり手は込んでますよ。なのに、難解じゃなくむしろ非常に読みやすいんです。作者は元々ライトノベルを多く書いているそうですが、そのせいか文体は軽妙でテンポよく読めます。
後半にはケルト神話に基づいたファンタジー的な部分もあります。それらに関心のある人にはここも魅力の一つでしょうね。
私は『小説』のことを知って、ある小説を思い出しました。
「何という小説ですか?」
小林恭二『小説伝』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)です。
「『小説』という小説で『小説伝』という小説を思い出されたとは、ややこしいですね」
ははは、全くです。で、その『小説伝』は無名の高齢男性が遺体で発見される場面から始まります。彼の遺品にあったフロッピーディスク(何しろ80年代後半の作品でして)を孫にあたる若者が興味本位で見てみると、なんと単行本500冊分というとてつもない超大長編小説が収録されていました。その老人が生前、人知れず執筆していたのです。やがてこの超大長編小説が日本を、そして世界を翻弄する…という中編小説です。野崎まど氏が本作に影響を受けたかどうかは分かりませんが、小説についての小説である点とタイトルが似ているなと思って思い出しました。
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