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先にまとめから
4コマ漫画の奥深い世界にハマってみませんか?
クセの強いキャラクターがひたむきに生きる姿を描く手腕にかけては天下一品の漫画家・小池定路。小池氏が「商店街の再生」をテーマに据えた本作『若旦那はザンネン。』は、ちょっとシニカルな笑いと暖かな人間関係を巧みに両立させ、シリアスなテーマもきちんと消化した、読み応え満点なのにお腹にやさしい4コマ漫画の傑作です!
美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、アセクシュアルってご存知ですか?」
聞いたことはあります。「性的指向の一つで、誰にも性的に惹かれないことが特徴」(ジュリー・ソンドラ・デッカー:著、上田勢子:訳『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』P.20)ですよね。
「近々社内研修で、性的少数者と多数者がどう向き合うかと言うテーマを扱うことになったんです。講師役は複数の社員が担当するんですが、アセクシュアルについては私が担当することになったので、調べる必要がありまして」
講師役ですか、それは大役ですね。私の知る限りですが、同性愛やトランスジェンダーと違ってアセクシュアルをメインテーマとして扱った本は多くありません。ただ、メインテーマとしてではないのですがアセクシュアルの人物が分かりやすく丁寧に描かれた、とてもおもしろい漫画なら心当たりがあります。
「何という作品ですか?」
小池定路『若旦那はザンネン。』です。
「どんな作品ですか?」
架空の商店街を舞台にした、ストーリーものの4コマ漫画です。さびれつつある笹ロード商店街に店を構える榊茶舗。入院をきっかけに店主が店をたたもうと考えていたところへ、息子のしのぶが後を継ぐと宣言します。笹ロード商店街を愛する心は強いもののしのぶは極度の人見知りで、人の顔を見て話すことができません。人の視線におびえながらも町おこしに奮闘するしのぶをサポートするのは、なりゆきで住み込み店員となった日ノ出晴太郎、自由気ままな妹・風子、その彼氏で酒屋の息子で脳筋(昔の言葉で言う単細胞)のリュウジなど個性派・クセ者・常識人が入り混じった面々。町は活気を取り戻せるか? しのぶの挑戦の行方は? 物語終盤にしのぶは語ります「負けたくなかったんだ」と。彼は何に負けたくなかったのか?
「そこにアセクシュアルはどう関係するんですか?」
しのぶがアセクシュアルなんです。
好意を持つことはあってもそれが恋愛感情にはならない 性欲もあんまり無いんだよな(第2巻 P.19)
厳密には人に性的魅力を感じないことがアセクシュアルであり、恋愛感情がないことはアロマンティックと言います。恋愛感情があることはロマンティック。おおざっぱには、アセクシュアルでありロマンティックな人もいればアセクシュアルでありアロマンティックな人もいるそうです。これで言えばしのぶはアセクシュアルでありアロマンティックということになりますね。
ただ、この作品はしのぶがアセクシュアルでありアロマンティックであることを強調はしていません。内面的な葛藤や両親へのカミングアウトは描かれますがそれが作品の中心と言うわけではなく、淡々とお茶屋さんとして生き、暮らし、闘っています。
「…アセクシュアルやアロマンティックも含めて、性的指向や性自認がどうであれ人間は当たり前に暮らしているし、暮らしていけるし、暮らしていける世の中でなければならない、というメッセージでしょうか」
私はそう解釈してます。なお、小池氏はこうも書いています。
作中で描ききれなかったのですが、(中略)お互いの理解を得た上でパートナーの方と家族として暮らしている無性愛者の方もおりますことを追記しておきます。(第3巻 P.24)
小池氏の他の作品、『父とヒゲゴリラと私』や『ゴーゴーダイナマイツ』には自分が女性であることに葛藤する人物が登場しますし、未読ですがゲイカップルを描いた作品『日々、君』(←全てAmazonの紹介ページへ飛びます)もあります。小池氏にとってジェンダーやセクシュアリティは重要なテーマみたいですね。
「なにわt4eさんは『若旦那はザンネン。』のどんなところがおもしろいと思われますか?」
主な魅力は次の3点です。
・クセのある人物像
・胸が熱くなる展開(いわゆる「胸熱」)
・人が町を愛し、町が人を活かすことの豊かさ
クセのある人物像
極度の人見知り(と言うより対人恐怖症?)でパペットと腹話術を使ってやっと人と話せるしのぶ、マイペースでお盛んだけど意志は強い風子、脳筋ですがしのぶへの助力は惜しまないリュウジ、自立心の強い蕪木などなど個性の強いキャラクターを小池氏ははっきりと描き分けています。しのぶをサポートする面々の中心にいる晴太郎がクセのない常識人であるがゆえに彼らの個性が一層際立つ面もあって、そこがまたおもしろいんですよ。
胸が熱くなる展開(いわゆる「胸熱」)
しのぶは過去にある苦しい経験をしており、それが極度の人見知りの原因になっています。そんな彼が商店街再生のために立ち上がるんですよ。
「なかなか胸熱ですね」
ははは、私もそう思います。そして終盤、商店街を危機が襲います。しのぶはそれにも正面から立ち向かい、商店街を守ります。しのぶは過去の苦しみを乗り越えた…のではないかもしれません。しかし、過去の苦しみを抱えつつも前に進むこと・闘うことを選んだしのぶの強さには、抑えの効いたタッチで描かれてはいますが胸を打たれました。
人が町を愛し、町が人を活かすことの豊かさ
榊茶舗のみならず、笹ロード商店街にある他の店も、店も人もそれぞれに個性的で魅力的です。だからか、しのぶは笹ロード商店街をまるで人格のある存在であるかのように見ています。
町は住んでる人によって生きる/愛されることで生き延びられる/生き延びて豊かになると/その豊かさは住んでる間自分に返ってくる/だから住んでる間だけでも/この町を愛してやってくれ(第1巻 P.72~73)
ここで商売をし生活を作り上げる/人の暮らしが価値だよ(第3巻 P.70)
どちらもしのぶの言葉です。
「微笑ましいと言うか、笹ロード商店街への愛情がじんわり伝わって来ますね」
ええ。これはあくまで理想論かもしれません。住んでいる町に苦しめられる人も当然いるでしょう。ただ、人と町がこんな風にかかわりあうことができるならとても幸せなことだとは思います。晴太郎が見知らぬ初老の女性をお手伝いする場面(第3巻 P.5~12)はそれが非常にはっきり表れていますね。
他にも抑えの効いた描写やちょっとシニカルなユーモアなど、様々な魅力を備えた作品です。
「なにわt4eさんのご感想を聞かせてください」
クセのない人物を重要なポイントに据えることで他のキャラクターの個性や人間模様を引き立たせる手法は非常にオーソドックスですが、それがとても効果的に使われています。ただ、そういうクセ者たちが大暴れするタイプの作品ではなく、むしろとても抑えを効かせているところに私はリアリティを感じて、ひときわ好きです。ところどころで披露される日本茶の知識も、日頃お茶を楽しむ役に立ちそうですね。
私自身も商店街が身近にある環境で育ったせいか、笹ロード商店街をとても身近に感じました。
アセクシュアルと言う、恐らくまだあまり知られていない性的指向をきちんと調べ、敬意をもって描いているところも新鮮だし、好感を抱きました。しかも、抑圧される性的少数者の悲劇ではなくとても自然と言うか当たり前に描かれている。単に漫画としておもしろいのはもちろんですが、そうした点でも『若旦那はザンネン。』は意義の大きな作品だと思います。
最後にもう1回。
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