『本当の貧困の話をしよう』(石井光太)ティーンエイジャーとともに直視した「貧困」

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(架空の人物・美濃達夫さんから本書について尋ねられた、という設定で書いております)

「なにわt4eさん、貧困と格差について分かりやすく読める本はありますか?」

 と、おっしゃいますと?

「思い付きで先日いつもと違うルートで通勤したら、ビッグイシューの販売員さんがいたんです」

 ああ、よく大きい駅の前におられますよね。買われたんですか?

「ええ。ホームレスの人が自立のために売ってることは知ってましたが、読んだことはなかったので。それで貧困とか格差とかについて何かいい本を教えていただきたいと思いました」 

  そういうことでしたか。いくつか心当たりはありますが、読みやすい、かつ取り扱う内容が幅広いという点で石井光太『本当の貧困の話をしよう』はどうでしょう?

目次

「どんな本ですか?」

 石井光太という人は小説・児童書・ノンフィクションなど多数の著作をものしていますが、特に貧困や格差に関する著作が多いです。この本は前書きに「はじめに 17歳の君たちへ」とある通りこの本は17歳の若者に貧困や格差について講義するという形式で、貧困について幅広い側面から語るというものです。大きな特徴は、講義の対象が17歳だからかとりわけ子どもの貧困に多くの紙面を割いている点ですね。

「著者は何を語っているんですか?」

 著者言うところの「人生や社会に革命をもたらすための方程式」(文春文庫、以下同じ、P.18)です。ここでいう革命とはもちろん暴力革命とかテロリズムではありません。「平和的に社会を良い方向に変えること」と考えていいでしょう。

どうやれば、貧困から脱出できるのか。
どうやれば、人生を輝かすことができるのか。
どうやれば、社会や世界をより良いものに変えることができるのか。(P.17)

 それを語るのが本書です。

「人生や社会に革命をもたらすための方程式、と言いますと?」

 ネタバレ回避のためにごくつづめて言えば、子どもの中に自己肯定感が育つか自己否定感が育つかだと著者は書いています。確かに、心に希望や自信があれば困難な環境に育っても前向きな気持ちで努力できるでしょうし、絶望や無力感でいっぱいになってしまえば投げやりな生き方になって坂道を転げ落ちてしまうだろうとは容易に想像できます。

「一口に貧困と言っても色々ありますね。個人の貧困とか国の貧困層とかストリートチルドレンとか。この本はどんな問題を取り上げているんでしょう?」

 日本における貧困、発展途上国のスラム、ストリートチルドレン、貧困とセックス、少年犯罪との関連、格差社会、そして貧困や格差をどうやって乗り越えるか。そういった問題が取り上げられています。

「そもそも、どうして17歳の若者に語るという形式をとったんでしょう?」

 前書きで石井氏はこう語っていますが、これがその理由でしょうね。

なぜ君は、17歳という年齢で、息苦しい貧困のリアルを知る必要があるのか。 それは足元の現実をしっかりと見つめないかぎり、未来を明るいものにしていくことができないからだ。
君の親の世代の人たちが犯した過ちをふり返ってほしい。彼らは貧困は自己責任だと考えて現実から目をそらし、自己中心的な幸せだけを求めたがゆえに、貧困問題に足をすくわれてしまった。(中略)
僕は、若い君たちに、そんなくだらない過ちを犯してほしくない。(P.16~17)

「なにわt4eさんのご感想をお聞かせください」

 私にとって一番興味深かったのは格差問題についての記述ですね。貧困家庭に生まれ育って、たちの悪い先輩から誘われて特殊詐欺に手を染め老人から金を巻き上げた人物は著者にこう語っています。

さかのぼれば、最初にあくどいことをしてきたのは高齢者たちなんだ。
あいつらは家庭に恵まれたというだけで学歴を得ていい会社に勤めて、(中略)あいつらは、おふくろや俺を「自己責任」だと言って見捨てて自分たちだけ贅沢をしてきたんだ。
(中略)そんな社会の中で貧乏人がまっとうな暮らしをするために、富裕層からありあまる金の一部をふんだくって何が悪いっていうんだ。俺は手に入れた金で遊んでるわけじゃねえ。ほとんど嫁さんにわたしているし、子供の教育費とか生活のために使ってる。(P.239)

 もちろん巻き上げられた方には通じる理屈ではありませんよね。被害者としては生活費の大半を巻き上げられたのかもしれない。今度はそんな老人が生活のために万引きなど別の犯罪に走るかもしれない。そう考えると結局は「貧困」というババを最後に誰が引くかのババ抜き、もっと言えばババの押し付け合いになる。貧困や格差を放置すると社会全体がこんなババ抜きの場になる現実は認めざるを得ません。
また、私たちがバナナやコーヒーを安く味わえる背景には安くこき使われる海外の労働者がいる。よく指摘されることではありますが、では自分はどうすればいいのか?バナナやコーヒーをがまんして解決できる問題ではありませんね。こうしたことについて石井氏は若者に何を語っているか、それは本でお読みいただきたいと思いますが、少なくとも石井氏をはじめ貧困について問題提起している人を偽善者呼ばわりするのは無意味だと思います。そうした人には「それではあなたは何をしましたか?」としか答えようがないでしょう。 なお、フィクションですがやはり貧困をテーマとした本として宮部みゆき『火車』や望月諒子『蟻の棲み家』(←当ブログの紹介記事に飛びます)も面白かったですね。

まとめ

 石井氏は若者に語る形式で本書を書いていますが、私を含めいい歳した大人こそ読まなければならない本です。「自己責任だ」でも「かわいそう」でもなく自分の問題として貧困や格差を考えるために。
いつなんどき自分も貧困に陥るか分からないという視点が見られない点は少々アンバランスに感じましたが、これは意図的にしていることかもしれません。いつなんどき自分も貧困に陥るか分からないということは、その時点では自分は貧しくないということです。しかし石井氏が語りかけようとしたのは豊かな家庭の若者だけではありません。相手は「17歳の君たち」ですから、その中には豊かな家庭の若者も貧しい家庭の若者もいることでしょう。そのどちらにも語ろうとしたから、いつなんどき自分も貧困に陥るか分からないという視点をあえて外したのかもしれません。 ただ、本当に貧しい、今日明日の食事にも事欠く人はそもそもこの本を読むことすらできないのではないかというある種のジレンマも存在します。だからこそ、小さなことでも何かできる人がすることが必要なのだと思います。

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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