先にまとめから~迷いだらけの自分だけれど~
何の迷いもない時に自分を信じるのは簡単です。では、迷いだらけで葛藤している時、あなたは自分を信じることができますか?
本書『はっちぽっちぱんち』第7巻では、一切の迷いなく拳を振るう希歩と迷いだらけの自分を認めつつ死力を尽くすレミが激突します。別次元の住人が勝つか、自分を磨きぬく凡人が勝つか。二人の闘いは、あなた自身の闘いかもしれません。
そしていよいよ明かされる、希歩に狂気を植え付けたもの。彼女は何を経験したのか?
『はっちぽっちぱんち』は惜しくもこの第7巻で完結しましたが、これからも本作はあなたと一緒に闘い続けてくれるでしょう。そんな彼女らの行く先を一緒に見届けていただければ、こんなにうれしいことはありません。
こんな方々には特におすすめです。
・迷ってばかりの自分だけど、そんな自分を信じてみたい方
・登場人物の変化や成長をじっくりと見守りたい方
・闘いだけじゃなく、人同士が影響を与え合う姿を見たい方
※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
美濃さん、『はっちぽっちぱんち』がとうとう完結しましたよ。
「本当ですか!? まだ選抜合宿でしたよね。それが終わったらRMAWSの話はどう展開するんだろうと思ってたんですが」
そうですよね、私も同じことを期待してたので残念です。ただ、最終巻はもう出てまして、読み応えのある内容ではありましたよ。
「ぜひお聞かせください」
もちろんです。
あらすじ
この巻でいよいよ希歩の狂気がどのようにして生まれたのか明かされます。レミは希歩が「人を殴る」ことに執着する理由を知るため希歩の母・黒石歩美に会い、希歩が幼少期に経験したことがその原点だと知らされました。
歩美の思いをも背負ったレミは、試合を控えて希歩と横浜シーパラダイスでの一日を楽しみます。二人は笑顔で「死ぬまで殴り合おう」と誓い合いました(おい……)。
そして希歩とレミの試合が始まりました。最初のダウンはレミが奪ったものの、試合が進むにつれて希歩とレミの本質的な違いが浮き彫りになっていきます。おのれの命すら削る闘いの中、レミが最後に信じたものは何だったか? 試合の結末は?
希歩の原点──パンドラの箱
「希歩の狂気を生んだものとは何ですか?」
大人にけしかけられて殴り合いを繰り返した経験です。希歩の父親・濱野隆大はかつて地下格闘技大会を主催しており、そこに3歳の希歩を連れてきていました。たまたま希歩が他の子とケンカになったところ、濱野は二人をリングに上げて殴り合いをさせました。希歩が殴れば拍手喝采。そんなことが半年ほど繰り返されてから歩美が気づいて止めたものの、すでに希歩には暴力への衝動が根深く刻み込まれていたのです。
「そりゃ歩美にとっても相当ショッキングだったでしょう」
ええ、これがきっかけで二人は別居もしくは離婚、希歩は歩美が引き取りました。長い間歩美はその衝動を閉じこめるように希歩を育てましたが、REINAがそのパンドラの箱を開けたという訳です。
「レミが背負った歩美の思いとは何ですか?」
膝の故障で引退して今は車いす生活ですが、歩美はかつて女子格闘技の花形選手でした。それだけに歩美の思いは複雑です。
元格闘家として言うなら カウンター一撃で意識を刈り取りなさい 試合が長引けば事故が起きる確率は高くなる でもあの子の母親としてお願いするなら──(第55話「パンドラの箱」)
歩美の矛盾した思いを、レミは背負いました。
「それに対して、レミは試合でどんな結論を出したんですか?」
具体的に言ってしまうとネタバレになるんですが、歩美の思いにも全力で応え、自分自身にも悔いの残らない闘いをしたとだけ申し上げます。
「その後、希歩は?」
レミとの闘いでは死力を尽くしましたがそれでも満足できなかったようで、プロの格闘家になりました。幼少期に植え付けられた狂気の根深さと見るか、自分が最も輝ける世界を選んだ前向きな選択と見るかは意見が分かれるかもしれませんが、
お母さんを置いてでも… あの場所で生きたい!!(第13話「優しい子」)
とかつて叫んだおのれに忠実な選択だったことだけは間違いないでしょう。
レミの拳──“はっちぽっちぱんち”
タイトルの「はっちぽっち」とは英語で「ごった煮、ごちゃまぜ」を意味します。ごった煮のパンチ、それはレミの拳のことでした。
あぁ… 希歩── お前の拳は綺麗だよ 純粋で 真っすぐで 混じりっ気のない 綺麗な拳だ あたしは今 お前との殴り合いを楽しいと思ってる でも お前を止めたい 女子格を壊したくない NANAさんに報いたい気持ちもあるのに この期に及んでまだREINAさんにも認められたい お前の純粋な拳と違って あたしの拳はごちゃごちゃだ でも あたしは この拳を信じるよ このごった煮の拳で お前を終わらせるよ(第61話「はっちぽっちぱんち」)
「ただ人を殴りたい一心で闘う希歩に対して、レミは色々な葛藤を抱えてますね」
そうなんです。しかし彼女は、迷いや葛藤だらけの自分を信じて闘います。一切の迷いがない希歩は私たち読者にとって言わば別次元の存在ですが、レミは迷いっぱなしでありながらも前に進むことをやめない凡人です。私はレミと希歩に、正反対の強さを感じました。
「…死力を尽くして殴り合うというのは私にとって遠い世界ですが、何だかレミの闘いが他人事に思えなくなってきました」
私もです。 また、レミは闘いのさなかにNANAに報いたい思い、REINAに認められたい思いを改めて自覚するのですが(第61話「はっちぽっちぱんち」)、それがNANAの包容力やREINAのカリスマ性を浮き彫りにしているのもおもしろい点です。こうしてみると本作は「人物Aに対する人物Bの反応や思いが、人物Aのある特徴を浮き彫りにする」パターンが多いように思います。
「そう言えば第5巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)の時にも、そんな感じのお話しがありましたね。アキが身を案じレミが体を張るのも、希歩の人間的魅力の故だと」
ええ、まさにそれです。
希歩をめぐる人々
最終巻ですので、主要な人物の変化について触れてみましょう。ここをしっかり振り返るとおもしろさが倍増しますから。
らぶ──希歩の心強い同志
希歩と闘った頃のらぶは彼女を歯牙にもかけていませんでした。しかし合宿を去るレミの背中を見つめる希歩を放っておけなかったのか、あるいはREINAか坂本に頼まれたのか、次第に彼女の面倒を見始めます。タイに残した家族と重ね合わせていたのかもしれません。
「そう言えば、太田アリスが希歩に無用なダメージを与えたことでらぶは怒りましたね」
嬉しいですね、覚えてくださってましたか。実はらぶは合宿を離脱してから大阪に向かい、小林愛理の空手道場で武者修行しつつ希歩を見守り、やがてREINAのもとに戻りました。
小林愛理──苛立ちつつも無視はできない
「愛理は希歩に反感を抱いてましたね」
はい。合宿中も合宿離脱後も、愛理は一度も希歩を名前で呼んでいません。とは言え希歩を無視はできない様子で、合宿中と違って希歩をどこか認めているように見受けられます。愛理が合宿を離脱したのも希歩がきっかけでしたし、後日譚ではキックのリングに立っていますし、ある意味では彼女も希歩の影響を受けていると言えそうですね。
アキ──一度は決別したけれど
「彼女は希歩と袂を分かったんでしたよね」
そうです、希歩の狂気について行けずアキは希歩から去りました。しかし希歩を案じ続けていたようで、希歩対レミ戦を観ながら友人たちと希歩を応援しています。またこの試合中、希歩がクリンチ(※)を繰り返す場面があったのですが、アキはその狙いを見抜く慧眼の持ち主でもあります。アキのその後を見ると、彼女らの友情がかいま見られて微笑ましいですよ。
改めて初期のエピソードを読み返してみると、アキが悩みごとのありそうな希歩を気遣う場面があります。もともと友情に厚い人物なんでしょう。(第1話「FIGHTING」)
興味深いのは、第2巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)で他の友人が希歩にセクハラをはたらこうとするととっさに立ち上がった場面です。(第6話「早く殴りたい!」)セクハラを止めようとして立ち上がったのなら希歩への友情ゆえの行動と解釈できるし、希歩に不穏なものを感じて立ち上がったのだとしたら洞察力の鋭さゆえの行動と解釈できる。
「その両方かもしれませんね」
ええ、友情に厚く洞察力のあるアキならありえます。
※…相手に抱き着いて、パンチを打たせない技術。
美夜──希歩の狂気に染まった闘士
彼女は希歩の狂気に最も強烈な影響を受けています。第5巻の(←本ブログの紹介ページへ飛びます)対希歩戦で完全に染まりましたからね。ただそれ以降格闘技からは完全に手を引いたようなので、去るときはきっぱり去る、いわゆるオール・オア・ナッシングというタイプなのかもしれません。
他には、希歩と直接の接点はないもののNANAもおもしろい人物でした。
「レミの先輩でしたね」
ええ。面倒見がよいだけでなく、女子格闘技の行く先を真剣に憂える広い視野を持っていたり、レミが自分のファイトスタイルを再構築するのを的確に導いたり、格闘家としての希歩の本質を見抜いたりと、奥の深い人物だと感じました。彼女は『はっちぽっちぱんち』の魅力を数段ステップアップさせていると思います。
感想
「なにわt4eさんは『はっちぽっちぱんち』第7巻を読んでどう思われましたか?」
一番胸に響いたのはレミです。迷いや葛藤だらけの、見ようによっては見苦しい自分を受け入れて、そんな自分を信じて闘う彼女の気高さに心を揺さぶられます。第6巻と比べると強烈に人間くさいですが、だからこそどこか共感せずにいられません。
「…読者である私たち自身への問いかけのような気もします」
私もそう思うんですよ、「迷いだらけの自分を信じて闘えますか?」と問われているような気がしてならないんです。
作品としての『はっちぽっちぱんち』は完結しました。最後は駆け足めいた印象がぬぐいきれません。それでも、希歩の狂気が周囲を大きく動かしたこの物語は、「こんな自分だけれど、それでも信じて闘おう」とするあなたと一緒に闘い続けてくれるでしょう。
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・『拳奴死闘伝セスタス』技来静也 第2巻
この上なく幸せそうな笑顔を浮べつつ殴り合う希歩とレミを見て、私はセスタスとフェリックスの語らいを思い出さずにいられませんでした。技来氏の言う「雄弁で濃密な 嘘偽り無い『無言の交流』」が、希歩とレミの間にもあったのですね。
・『拳奴死闘伝セスタス』技来静也 第8巻
ここでセスタスとムタンガが交わす文字通りの「無言の交流」にも希歩とレミの友情に通じるものを感じました。第2巻と並んで、強敵同士の絆を見たい方にはおすすめします。