『はっちぽっちぱんち』第4巻(原作:カツラギゲンキ、漫画:嵯峨あき)「信念」って何だろう?

目次

先にまとめから~自分が自分であるために~

「信念を貫く」って、どういうこと?
「夢を追う」って、どういうこと?
 それは何の犠牲も払わずにできること? 

 誰もが一度は直面した疑問だと思います。この疑問に「格闘技」を通じて向き合ったマンガがあるとしたら、あなたは読んでみようと思いますか? 

 もしあなたが少しでも心に引っかかるものを感じられたなら、ぜひ『はっちぽっちぱんち』第4巻をお読みください。格闘技に関心があってもなくても、信念を貫くためにあえて今の居場所を手放したレミの生き方に触れたとき、きっとあなたは感じるでしょう。心の中にある熱い何かが呼び覚まされるのを。

 信念ばかりじゃありません。本書で語られる女子格闘技への思いは「観て楽しむ側だからって選手たちの傷や安全に無関心でいいのか?」という社会的な問題提起であり、一つのルールにのっとって異なる種目出身の選手同士が競い合うさまは高度な頭脳戦でさえあります。
 格闘シーンの迫力だけでは終わらない『はっちぽっちぱんち』の奥深い作品世界を、ぜひ一緒に体験しましょう!

こんな方には特にオススメです。

・「信念」「夢」について考えている方
・心の中に熱いものを感じたい方
・スポーツの試合を社会的な面から考えてみたい方



※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

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美濃達夫さんとの会話

(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)

「なにわt4eさん、『はっちぽっちぱんち』3巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)読みましたよ」

 嬉しいですね、どうでしたか?

「やっぱり希歩・瑠美子戦がエキサイティングでしたね。希歩の格闘技術が少しずつ進歩してる点もおもしろかったですし」

 そうですよね。

「あと、なにわt4eさんはたびたびレミの表情に言及されてますよね? だから私もそこに注目してみたんですが、私は『ミヤvs.キラ』でリングを降りるミヤに声をかけたレミの表情が印象的だと思いました」

 と、おっしゃいますと?

「ミヤを気遣いつつも、自分自身の闘いを思って戦慄するとともに覚悟を決めているように見えるんです」

(単行本を取り出す)あ、本当ですね。読めば読むほどレミは重要な役回りに置かれていることがうかがわれますね。

「4巻はもう読んでおられるんでしょう? ぜひお話しください」

 ええ、喜んで。

あらすじ

 初めにお断りしておきたいんですが、この巻はレミがおのれの信念を貫こうとする姿がすごくカッコいいんですよ。格闘技に関心がない方にもきっと胸に響くものを感じていただけると思います。

 で、あらすじですが、八鋤レミはレスリング出身の総合格闘家(※1)・天田ニーナと対戦します。レミはこの試合に負ければRMAWSの出場者選抜合宿から退場という崖っぷちでした。レミはニーナを下すものの「自分が勝てる闘い方」と「自分が目指す闘い方」の違いに目をつぶることができず、自ら合宿を去ります。

 次いでシュートボクシング(※2)出身の荒井麗が合流、らぶと対戦します。一方レミは古巣のゴールドウルフで先輩のNANAを相手に訓練を積んでいました。ある夜NANAはレミを伴って後楽園ホールへ出向き女子格闘技の試合を観戦、女子格闘技への思いと危機感を吐露します。

 そして広島から双子ボクサーの太田姉妹が合流し、姉の太田アリスと希歩の試合が始まりました。ローキックでアリスの動きを止めようとする希歩ですが、パンチと比べて蹴りに苦手意識があるため今一つ攻めきれずアリスのパンチに翻弄され気味です。そこで希歩がとっさに繰り出した一手とは?

※1…大まかに分けると格闘技には空手やボクシングのように「突く・蹴る」技に特化した打撃格闘技、柔道やレスリングのように「投げる・取っ組み合う」技に特化した組技格闘技、そして双方の技術を取り入れた総合格闘技の3種類がある。総合格闘技を実践するのが総合格闘家。
※2…キックボクシングに投げ技と立った状態での関節技を取り入れた格闘技。

憧れと言う名の「信念」

「先ほどおっしゃった、レミがカッコいいという点を詳しく教えてください」

 ファイトスタイルを変えればRMAWSで勝ち上がれることを分かっていながらレミは、自分が信じたファイトスタイルを貫くために合宿を去る選択をしたんです。

「どういうことですか?」

 レミがRMAWS主催者のREINAに心酔していることはお話ししましたね? REINAはガードを固めつつ相手にプレッシャーをかけ、少ない手数でダメージを与えて倒すスタイルが身上でした。レミもそれを目指していましたが、彼女にはこのファイトスタイルに必要な強い体幹も一撃のパワーも欠けていました。その代わり、レミにはREINAをも上回る武器がありました。

「興味深いですね、それは何ですか?」

 動体視力です。ガードにこだわらず動体視力で相手の攻撃を回避しつつ両手を攻撃だけに使えば勝てるとREINAは見抜いていましたし、レミもそれを自覚していました。

今まで守りに使っていた手を 全て攻撃に転化すれば 八鋤レミ…お前は── 誰よりもこのルールに適した選手になれる(第26話「目覚め」)

 しかしそれは、REINAに憧れて格闘技を志しREINAのファイトスタイルを踏襲してきたレミにとって、自分への裏切りに等しいことだったんです。

あの闘い方の方があたしは…強くなれる きっと…REINA様の求める選手にも近いって分かって…ます でも…すみません…!! あのファイトスタイルは あたしが憧れたキックボクシングじゃないんです(第27話「譲れないモノ」)

「REINAに憧れてはいながらもREINAが求める闘い方を自分に許せなかった…ということですか」

 はい。

「何だか複雑ですが、そこがレミの信念ということでしょうか」

 ええ。希歩に別れを告げる時の表情と相まって、ここは本当に胸が熱くなりました。それと同時に、「自分の信念を貫くって、こんなに勇気がいることなのか…」と思いましたね。その勇気を自分は持てるかどうか、読むと思わず自問したくなる場面だと思います。

女子格闘技への思い

 RMAWS出場者選抜合宿の試合はネットで公開されていました。これで希歩・瑠美子戦を観ていたNANAはレミに危機感を吐露します。

「危機感、と言うのはどういうことですか?」

 なかば素人の選手に素手に近いオープンフィンガーグローブで、KOで決着が着くまで顔面ありの殴り合いをさせるのは危険すぎる、これがおもしろさの基準になったらせっかく少しずつながら盛り上がり始めていた女子格闘技は終わるという危機感です。レミもNANAに共感し、REINAの方針に対する疑問をさらに募らせます。

あんなもの格闘技じゃない ただの暴力だ…! いつ事故が起きてもおかしくない!!(第30話「格闘技と暴力」)
アレが『面白い』の基準になったら… 確かに今の女子格は… 終わる…(第31話「不良姉妹」)

 この試合を楽しんで読んでいた私が言うのも無節操な話ですが、NANAの懸念はうなずけます。事実、瑠美子はともかく希歩は防御技術がまだ高度とは言い難く、加えて相手を殴る為なら自分がどれだけ殴られても意に介しません。これでは脳にどれだけダメージがたまるか、分かったものではありません。

「いつかおっしゃってましたね、希歩のファイトスタイルではパンチドランカーか網膜剥離に一直線ではないかと気になると」

ええ、しかもRMAWSは「KOできなければ負けとみなす」ルールです。

「…お話を聞いていて、コロシアムでしたっけ? 選手同士が剣で殺し合うのを観客がやんやの喝采で見物していたという、あれを連想しましたよ」

美濃さんがおっしゃるそれこそがまさにNANAとレミの危機感だと思います。自戒を込めて言うことですが、観客としては選手の身の安全も真剣に考えなければなりません。そこにきちんと踏み込んでいるところも『はっちぽっちぱんち』の魅力だと思います。

キックボクサー対総合格闘家、キックボクサー対ボクサー

「確かRMAWSってキックボクシングでしたよね? 少なくともキックボクシングが土台のルールだったと思います。そこへレスリング出身とかボクサーとか、格闘技の素人である私が見ても明らかに畑違いの選手が参入してますね」

 ええ、これまでと比べると4巻ではいわゆる異種格闘技戦の趣が強いです。

「組んだり投げたりのレスリングや蹴りのないボクシングの選手が、どうやってキックボクシングで闘うんですか?」

 そこも4巻の見どころでしてね。長くなるしネタバレの恐れがあるので詳しくお話しするのは控えますが、こういう背景がある相手はどう闘おうとするか・自分に適したファイトスタイルはどんなものか・それらを踏まえて自分はどう闘うべきかを分析する過程は高度な頭脳戦ですよ。

「ただ殴ればいい、蹴ればいいというものではないんですね」

 その通りです。サッカーもただボールを蹴ればゴールに入るってものじゃない、それと同じです。

感想

「なにわt4eさんは第4巻を読んでどう思われましたか?」

 色々と見どころはありますがやはりレミに尽きます。崖っぷちで意地と誇りを燃え上がらせるレミ、「お前との2か月ちょっと 悪くなかったぜ」(第25話「憧れ」、第27話「譲れないモノ」)と希歩に別れを告げるレミ、再出発のためにおのれを苛め抜くレミ、NANAとともに女子格闘技の行く手を憂えるレミ。控えめに言ってレミの男前全開です。これは男女問わず惚れますよ! 
 そのせいか、第4巻の表紙を飾るレミだけは闘志に燃える表情をしているんです。第1巻~第3巻と第5巻の表紙絵は各キャラクターの笑顔か、笑顔でなくても穏やかな表情のクローズアップなんですが。レミの位置づけがこんなところにも表れているようで興味深いですね。

 あと、先ほどはほとんど触れませんでしたが荒井麗はかなり癖の強そうな人物で、かつ綺と浅からぬ因縁があることが示唆されています。対らぶ戦ではあっさり敗れるものの、格闘家としても人間としても一筋縄ではいかない人物のようで、興味が尽きませんね。

「ちょっと待ってください、『綺(キラ)』と『麗(レイ)』を合わせると…」

あ、「綺麗(きれい)」になりますね!

「ですよね? これは作者の遊びでしょうか」

断定はできませんが、おそらく。とは言え、これは二人の因縁を暗示しているのかもしれませんね。

 太田姉妹は二昔くらい前のヤンキールックで登場するので正直なところ少しズッコケましたが、オープンフィンガーグローブの特性をちゃんと把握できたり、第5巻ではRMAWSに明確なヴィジョンを持って臨んでいることが描かれたりと、それなりに聡明であることがうかがわれます。また、キックボクサー対ボクサーとなると「ローキックでボクサーを痛めつける」展開が予想されがちですが、逆に「ボクサーが高度なパンチの攻防技術でキックボクサーを翻弄する」展開になっているのも興味深かったですね。この辺も、原作者カツラギゲンキ氏が格闘技に対して深い見識の持ち主であるがゆえだと思います。

 各人物の背景や本性が少しずつ明らかになってきて、これからも『はっちぽっちぱんち』は目が離せませんよ!

(しかしゴールドウルフと言いつつなぜゴリラのオブジェ…?)


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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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