先にまとめから~今より少し熱い自分へ~
「自分は何かに全力を尽くすことができるの?」
「そもそも全力を尽くしてどうなるの?」
「ガムシャラな人ってあこがれるけど、自分はそんな風にはなれないかな…」
そんなモヤモヤ、抱えていませんか? もしあなたの答えがイエスなら、あるいはノーと答えることにためらいを感じるならお読みいただきたいマンガがあります。今話題の女子格闘技マンガ『はっちぽっちぱんち』です。
本作は「弱い者がおのれの弱さと向き合いながら少しずつ強くなる」というよりは「獰猛さまる出しで競い合う強者の群れに放り込まれた主人公が、おのれの強さを少しずつ開花させる」「そして周囲に大きな影響を与える」ドラマです。ここでご紹介する第3巻では、いたって温和な好人物だけど「人を殴りたい」強烈な願望を秘めた少女・黒石希歩と、虐げられた鬱屈から二人目の人格が生まれた黒田瑠美子が命がけで傷つけ合いながら互いを認め、次の一歩を踏み出します。
『はっちぽっちぱんち』第3巻を読み終わった時、あなたは今までより少し熱い自分・少し前向きな自分に気づくでしょう。
格闘技に興味がある方もない方も、情熱と肉体がぶつかり合う『はっちぽっちぱんち』の世界をぜひご覧ください!
※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、前に『はっちぽっちぱんち』第2巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)のことをお聞きした時に希歩がらぶにビックリの一手を放ったとおっしゃってましたよね」
ええ。気になります?
「そりゃもちろん。3巻で判明するんですよね?」
はい。それじゃ今3巻についてお話ししますね。いつまでも気を持たせるのも悪いですし。
「助かります」
あらすじ
希歩がらぶに放った一手、それはスーパーマンパンチ(ジャンプでローキックを避けつつ右パンチを顔面に放つ)でした。もっともこれはあえなく封じられますが、らぶは希歩の背景に関心を持つようになります。次いで途中から合流したレスリング出身の天田ニーナが元ひきこもり・現在保護観察中の黒子瑠美子と対戦してランキング戦第1節が終わります。そして第2節の第1回戦。「人を殴りたい」狂気を爆発させる希歩と二重人格をそのまま試合運びに活用する瑠美子が死力を尽くします。次いでアマチュアとして81戦81勝6KOという人間離れした実績を誇る松任谷綺と、自分が主役でいるためならいくらでも鍛錬を重ねられる鉾那美夜の試合が始まりました…。
「スーパーマンパンチ!? そんな技があるんですか」
もともとそういう技があるというより、とっさに出たアドリブ技と考えた方がいいでしょう。試合はらぶの圧勝でしたが、このとき希歩が見せた表情には鬼気迫るものがあります。
見どころ
「なにわt4eさんが主に興味を持たれたのはどんなポイントでしたか?」
そうですね、いくつもあるんですが「主に」ということで挙げますと、
・希歩の背景
・瑠美子の二重人格
・希歩・瑠美子戦──次の段階へ
・綺対美夜戦──みやの凶暴性
・坂本の信念
です。
希歩の背景
希歩の『人を殴りたい』という強烈な願望の背景が、かなりぼんやりとですが示されます。彼女の母親が
薄々わかっていたけど確信したわ あの子を抑えるには 新しい別の檻が必要なんだって(第18話「狂気の根源」)
と語る場面、また第2巻ですが
血は争えないってこういうことを言うのね …あなた(第13話「優しい子」)
と独白する場面からすると、父親が関係しているかもしれません。
瑠美子の二重人格
(注:本作の瑠美子に見られる二重人格が、かつて多重人格と呼ばれ現在は解離性同一性障害と呼ばれる実在の精神疾患を正確に反映したものかどうかは保証の限りではありません)
その希歩と対戦した黒田瑠美子は二重人格の持ち主で、試合にもそれを活用しています。
「どういうことですか?」
瑠美子の中には臆病だが冷静で分析力のあるルミ、凶暴で殺意そのもののクロの二人がいます。ルミは対戦相手の情報収集と分析を、事前にも試合中にも徹底的に行います。そして試合中にクロと入れ替わり、そのデータを活かして戦うわけです。
「そんな人格が生まれるには、何かきっかけがあったんですか?」
はい。父親の自殺と、それに端を発したいじめ被害で限界まで追い詰められたことでいつしか瑠美子の心の奥底でクロが誕生していました。そして転校後に加害者と再会したことで、瑠美子自身も気づく形でクロが姿を現したんです。
希歩・瑠美子戦──次の段階へ
「で、その瑠美子と希歩が対戦したんですね」
ええ。ここで二人の違いが綺のモノローグで鮮明に語られます。
殺すために拳を振るう黒子に対して── キホの拳に目的はない 勝つためでも倒すためでも ましてや殺すためでもない ただ── 殴るために殴る(第22話「殺す殺す殺す」)
「そう言えば第1巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)をご紹介くださったときにおっしゃってましたね、希歩は殴る為なら自分がいくら殴られても意に介さないと」
よく覚えていてくださいましたね。試合は凄絶なダブルノックダウンを経て決着がつきました。試合後の彼女らは「瑠美子ちゃん… いっぱい殴り合いしてくれてありがとう!」「うん… こちらこそ…」(第23話「負けた相手」)と言葉をかけあっていますが、ここでの二人はどこか認め合っているように見えます。はっきりとは描かれていませんが、二人が次の段階に進むであろうことが予感される名場面ですよ。
綺・美夜戦──みや(鉾那美夜)の凶暴性
もう1人、第3巻で注目したいのは美夜です。
「先ほどお話しいただいたあらすじでは、メインは希歩・瑠美子戦のようでしたが」
その通りです。綺・美夜戦の扱いはかなり小さいですが、美夜の描かれ方がおもしろいんですよ。
「どういうことですか?」
ここまで美夜はアイドル的な格闘家兼インフルエンサーとして、陽気な目立ちたがり屋に描かれていました。ところが綺との試合で美夜は笑顔で大口をたたいたり、冷静に自分を追い詰める綺に怒りを爆発させたりするんです。
「少しずつ、格闘家としての本質が表れてきたわけですか」
そうです。ちょっとした狂暴性すら感じましたね。事実、後の試合ではそれがさらにヒートアップして、物語の転換点になりそうな気配さえ感じさせます。ここは単行本に収録されるのを楽しみになさってください。
「ははは、相変わらず気を持たせますね」
その方が楽しみにしていただけるでしょう?
坂本の信念
「坂本って誰ですか?」
RMAWSの主催者・REINAの秘書です。もっとも秘書だけでなく合宿中の希歩たちを世話したりトレーナーやレフェリーを務めたり、REINAに劣らず多忙かつ多才な女性です。彼女は仕事熱心でREINAの忠実な部下ですが、イエスマンではありません。と言うのも、希歩・瑠美子戦の開始直前、試合を止めるなと命じるREINAに対して口では「…はい」と答えつつも
私は止めますよREINAさん 判断を誤ればこの試合── 事故が起きます…!!(第19話「vs.瑠美子」)
と独白しているからです。
「口で『はい』と答えたのはもしかすると日本的サラリーマンの限界かもしれませんが、内心とは言えそれに逆らい選手の安全を優先させる姿勢は見習いたいものがありますね」
そうなんです。地味で扱いも小さいですが、見落とせないエピソードですよ。
感想
「なにわt4eさんは第3巻を読んでどう思われましたか?」
強く印象に残ったのは瑠美子ですね。試合後の彼女を見て、「行くところまで行って彼女は救われたのかもしれないな」と思いました。事実、試合中にクロは一瞬、実にさわやかな表情を見せるんです。終始殺意にゆがんだ笑顔で戦っていた彼女が。彼女が格闘家として一流かどうかはともかく、格闘技だからこそ彼女はこの救済にたどり着いたのかもしれないという気がします。
この試合でもう一つ私が興味を引かれたのは、レミの表情です。試合後、医務室で診察を受ける希歩を見舞うレミの表情から彼女の包容力がうかがわれます。第2巻で愛理の後ろ姿を見届けた時もそうでしたが、レミは何気ない表情から内心の強い思いが伝わる場面が多くておもしろいですね。また、それを描ける嵯峨あき氏の画力は見事です。
対するに綺・美夜戦は扱いこそ小さいものの今後の展開を思うと重要な伏線と言えるでしょう。それを考えながら再読すると新たなおもしろさを感じました。また、美夜の得意技がバックハンドブロー(※)というのもおもしろいですね。決まれば強力ですが一瞬相手に背中を見せるため、多用されにくいパンチなんです。
後はやはり、希歩から目が離せません。いくら狂気がどうのこうのと言ってもそれだけで猛者ぞろいの中を勝ち抜けるわけはないでしょう。彼女が格闘家として今後どう進歩していくのかにも興味がありますし、それを裏付ける鍛錬ももっと読みたい気がしますね。
それから、第3巻では表紙にクロとルミが描かれています。祈りをささげるようなルミと、穏やかな表情で寄り添うクロ。本編中には決して描かれなかった表情が見られて、物語と直接には関係ありませんがこれも魅力的でした。
すでに第4巻が発売されてますし、マガポケの公式サイトではまだ単行本になっていない話も読めます。それを読んだ後で3巻を再読すると、色んな発見があってさらにおもしろくなりますよ!
※…振り返るように素早く後方回転し、その勢いで打つパンチ。
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