『はっちぽっちぱんち』第1巻(原作:カツラギゲンキ、漫画:嵯峨あき)温和な少女の“狂気”が炸裂!

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目次

先にまとめから

 格闘技と聞くとあなたはどんなことを連想しますか?

「人に殴られる」?

 それとも、

「人を殴ってもいい」?

 本作では「人を殴ってもいい世界」格闘技に魅入られた少女が、日頃の温和さからは想像もつかない狂気を炸裂させます!
 彼女の狂気は周囲をどう動かすのか? 彼女自身をどこへ導くのか? そして格闘技という非日常の世界は、あなたの何を呼び覚ますのか? 一度視界に入ったが最後、目が離せなくなる彼女の行方を一緒に追ってゆきましょう!

※格闘技経験者の端くれとしてお断りします。プロ・アマ問わず格闘技を実践する者の大半はスポーツマンシップを身につけた常識人であり、格闘技を「おのれを鍛える世界」「野心を実現する手段」など、「暴力」とは違うものとしてとらえています。格闘技を「暴力が許される場所」「殺し合い」ととらえている者やジム・道場は、皆無とは申しませんがそうそうないことをご承知おきください。
 また本作では殴る・蹴るがメインに描かれていますが、格闘技には投げる・締める・組んで倒すといった技術も存在します。
 これらをご理解のうえで本書をともにお楽しみいただければ、無上の幸いです。

美濃達夫さんとの会話

(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)

「なにわt4eさんって『セスタス』シリーズを本当に熱心に読んでおられますね」

 ええ、もはや人生の教科書ですらあります。

「他の格闘技マンガもたくさん読まれているんですか?」

 そうでもないかな…『空手バカ一代』や『ホーリーランド』は腐るほど読みましたが、それ以外の格闘技マンガは数えるほどです。あ、でも最近読んだ『はっちぽっちぱんち』はとてもおもしろいです。まだ第1巻しか読んでませんが、ぜひこれからも読みたいですね。

あらすじ

「『はっちぽっちぱんち』ですか。どんな作品ですか?」

 主人公は女子高生・黒石希歩(きほ)です。柔道部に身を置き柔道整復師を目指す穏やかで親孝行な少女ですが、いつからか人を殴り倒す妄想にとりつかれていました。 ある夜希歩は夜の公園でレイプ魔に襲われますが、そいつを殴り飛ばします。ジョギング中だった女子格闘技の伝説的選手・REINA(レイナ)がそこに遭遇し、希歩の身を案じて割って入ります。REINAは希歩にただならぬ「狂気」を感じ、女子格闘技の世界へと導くのでした…。

「殴っていいんだ」

「狂気とはまた穏やかじゃないですね」

 ええ、そしてこの「狂気」が作品のカギです。

足の悪いお母さんのために 部活を頑張る友達のために 柔道整復師を目指す将来のために 人体の構造を学べば学ぶほど 空想の世界では人を壊していた(第1話「FIGHTING」)

 彼女は幼いころからよく「何かを倒す」空想をしていたのですが、それがいつしか「人を倒す」空想になっていました。そしてレイプ魔に遭遇して空想を実現するのですが、その時の表情が狂った喜びに満ちているんです。

「殴っていいんだ この人は殴っていいんだ」(同上)

という喜びに。

「恐怖や怒りでなく、レイプ被害者になりかけたのだから堂々とこいつを殴れるという喜びですか?」

 そうです。そしてこれがきっかけで女子格闘技に誘われるのですが、ここでも彼女の狂気が発揮されます。

「スパーリング(練習試合)ですか?」

 はい。REINAのジムに現れた彼女はすぐさまスパーリングを組まれます。相手はアマチュアとは言え一流選手、希歩は柔道こそ黒帯ですが打撃系格闘技の経験ゼロ。当然相手になりませんが、狂気に満ちた笑顔で希歩は拳を振るい続けます。

あぁー ここが 暴力が許される場所 私が許される場所(第3話「公開処刑」)

 そんな希歩に、ジムに集まった選手がみな目を奪われているんですよ。

 私の知る限りですが、暴力そのものに魅せられた格闘技マンガの主人公は他にいません。森恒二『ホーリーランド』は路上のケンカ、つまり暴力を題材としていますがテーマは路上のケンカを通じた若者の成長です。主人公の神代ユウもケンカの強さをおのれのアイデンティティとしているものの、暴力に魅せられている訳ではありません。ですが希歩は暴力を通じて成長しようとする訳でも何らかの野心を達成しようとする訳でもなく、「殴っていいんだ」という喜びに夢中です。そのためならどれだけ自分が殴られても意に介しません。

「…それが希歩の『狂気』?」

ええ、しかもそれ以外の点では極めて常識的な人物です。そういう意味で希歩は極めて特異なキャラクターですよ。

女子格闘技とは?

「そもそも、女子格闘技という格闘技があるんですか?」

 実は、私もそこが疑問なんです。これはあくまで私の認識ですが、女子ボクシングや女子空手、女子柔道など様々な格闘技や武道の女子部門をまとめて女子格闘技と呼んでいるのであって「女子格闘技」という格闘技はないんですよ。ただ、原作者のカツラギゲンキ氏は格闘技にかなり造詣が深いようなので、デタラメでこういう設定をしたわけではないと思います。

「では、この作品で『女子格闘技』と呼ばれているものはどういう格闘技なんでしょう?」

 作中では「これから立ち上げる団体はキックボクシングでオープンフィンガーグローブを使う」と説明されているので(第2話「初戦」)キックボクシングの女子部門と思われますが、オープンフィンガーグローブと言って投げや掴みができるように指先が出たグローブを使ってますから、厳密にはキックボクシングではなさそうです。そのあたりはゆくゆくはっきりすると思いますよ。

REINA CHILDREN

「希歩の他にはどんな選手がいるんですか?」

 登場順にご紹介します。REINA以外は彼女が招集した選手であり、作中ではREINA CHILDRENと呼ばれています。

・REINA(れいな)
 女子格闘技のレジェンドであり、これから描かれる女子格闘技のトーナメント戦「RMAWS(レディースマーシャルアーツワールドシリーズ)」の発案者です。「レディース」なのになぜRなのかは分かりませんが。

・松任谷綺(まつとうや きら)
 シュートボクシング出身。並みいるプロ選手を蹴散らす実力者です。REINAに心酔しているものの、REINAの計画するRMAWSに強く反発しています。また、希歩は彼女を見て「この人はなんか違う──!」(第4話「素人と玄人」)と直感しています。

・八鍬レミ(やすき れみ)
 キックボクシング出身。REINAに心酔しており、素人である希歩のスパーリング相手に指名されたことに強い不満を抱きました。

・小林愛理(こばやし あいり)
 フルコンタクト空手出身。何やら重い背景があるようです。

・鉾那美夜(ほこな みや)
 キックボクシング出身。SNSでフォロワー90万人、アイドル路線を目指しているようですね。

・らぶ(通称)
 ムエタイ出身。本名がとても長いため通称の「らぶ」で呼ばれることを希望しています。1日4試合出来ると自称しているあたり(第5話「RMAWS」)、かなりのタフネスが持ち味と思われます。

 他にも名前しか登場していない選手が4人いますが、彼女らについては今後の登場を待ちましょう。

感想

「なにわt4eさんは読んでどう思われましたか?」

 何より目を引くのはやはり希歩の狂気ですね。他に類を見ない人物造形に目を奪われますし、あの狂気に満ちた笑顔とそれ以外の表情を的確に描き分ける嵯峨あき氏の画力は見事ですよ。
 そして、これは原作のカツラギゲンキ氏によるものだと思うのですが、全体的に芸が細かいんです。

「例えば、どんなところですか?」

 冒頭近くで希歩は女子高のクラスメイトからレイプ魔の存在を知らされるのですが、そのクラスメイトが「投げようが殴ろうが正当防衛だよ正当防衛 罪にはならんて」(第1話「FIGHTING」)と語ります。これに対して希歩は

「そ…っか!」(同上)

と目を輝かせますが、ここが希歩の狂気をうかがわせる一種の伏線になっているんですよ。

また希歩は打撃系格闘技の経験がないにもかかわらず喉を殴ることを知っています。もしかすると彼女は潜在的に打撃系格闘技のセンスがあるのかもしれません。もちろん喉を殴ることはほとんどの場合反則ですが。これらの細かい描写も本作の魅力ですね。

 これからの展開は第2巻以降を読まなければ分かりませんが、私としては下手に「格闘技と暴力は違うんだ」なんて目を覚ましたりせず(このこと自体は揺るぎない事実ですが)このままブッチギレたキャラクターとして突っ走ってほしいですね。

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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