『拳奴死闘伝セスタス』第7巻(技来静也)本作中一、二を争う名勝負!

目次

先にまとめから

こんなあなたに本書『拳奴死闘伝セスタス』第7巻をおすすめします。

・勝ちを目指す理由ってなんだ? とお考えの方
・努力って何のためにするものなんだ? とお考えの方
・緊張感に満ちたマンガを読みたい方

「触れ得ざる亡霊」を見事な機転で倒した少年拳奴セスタス、凶悪犯をものともせず退けた冷徹な狩人ムタンガ。本書では二人の死闘がなんと一冊丸ごと費やして描かれます!
 他にもザファルが語る勝負哲学、彼が弟子に「勝て」と語る理由など、いつにもまして読みどころ満載の第7巻。その迫力を本記事で余すところなくご紹介!


※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。

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美濃達夫さんとの会話

(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)

「なにわt4eさん、またクリスマスソングの季節ですね」

 この季節になると必ずスーパーとかショッピングモールとかで流れる曲ってありますね。

「先日ジムで、クリスマスソングでしょうけど少し雰囲気の違う曲が流れてたんですよ。イントロがチャイムっぽい音と『ダーンダン・・・ダーンダン・・・』というリズムで、大勢の歌手が短いフレーズごとに交代しながら一曲を歌ってるんです」

 もしかして、こんな曲ですか? (サビを口ずさむ)

「ええ、それです」

 バンド・エイド「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」ですね。1984年に、ミッジ・ユーロとボブ・ゲルドフがアフリカの飢餓救済を目指して立ち上げたプロジェクトの曲です。ちなみに、これに触発されたアメリカ版が「ウィ・アー・ザ・ワールド」のUSA・フォー・アフリカです。

「飢餓救済のための曲だったんですか、それで少し雰囲気が違って聴こえたのかな。アフリカと言えば、『拳奴死闘伝セスタス』のムタンガもアフリカ出身でしたね」

 ええ。ムタンガとセスタスが戦う第7巻をまだご紹介してませんでしたね。ちょうどいい、お話ししましょうか?

「お願いします」

第7巻のあらすじと見どころ

 第7巻の主な内容は、あらすじだけ言えば以下の通りです。

・セスタス対ムタンガ戦:近間のセスタス、遠間のムタンガ

「…それだけですか?」

 はい。その代わりまるまる一巻を費やして、極めて濃密に描かれているので全く間延びはありません。ムタンガの人物像も闘い方も深く掘り下げられているのでまずはそこから始めて、次に試合についてお話ししましょうか。

・ムタンガの人物像
・ムタンガのファイトスタイル
・試合の流れ
・ザファルの勝負哲学

ムタンガの人物像

 美濃さんは第6巻で(←本ブログの紹介ページへ飛びます)はもう読まれたんですよね。ムタンガをどう思われましたか?

「本当に醒めてますよね。気負いとか野心とか言うものを感じない、すごく淡々とした人物です。めちゃくちゃ強いのに。だけどとどめを刺すとなると容赦ない」

 そうですよね。そこには父の死、そして図らずも経験した豹との闘いから受けた決定的な影響が働いています。ムタンガを見出し闘技祭に引っ張り出した商人ゾルバが語る言葉はこうです。

親父の死で若くして達観したんだろうよ あれは「彼岸」を見ちまった男の眼だ
「獲物を仕留めて生還する」 その為なら不要な感情を捨てられる男なのさ あいつは(第2章 第48話「遺志」)

 生死の境を越えたところにある何かを、ムタンガは見たんでしょう。

「そしてムタンガにとって、試合も狩りだと?」

 ええ。だから気負いも野心もなく、淡々と闘って相手を仕留めるだけというわけです。

ムタンガのファイトスタイル

 彼のファイトスタイルは基本的に、相手の攻撃が届かない遠距離から徹底的に突き離しつつ攻撃するというもの。ゾルバは第6巻で彼のワンツー(※)を「矢の左、槍の右」(第2章 第39話「矢の左 槍の右」)と呼んでいます。矢継ぎ早に放つ左、長く鋭く貫く右という意味です。

「そう言えば以前、ムタンガの拳闘は我流とおっしゃってましたね?」

 そうです。もともと拳闘選手ではないので、誰かの教えを受けたことはありません。そうでありながら

・高身長と長い手足を活かして安全な遠間から攻撃する合理的な戦術
・相手が低く飛び込むことを事前に想定する賢明さ
・不慣れな接近戦に持ち込まれても対応する順応力

などを備えた、まさに「我流の天才」です。犬に狙われた小鳥がその犬を翻弄する場面を若き日のムタンガが目撃し、小鳥の真意に深い感動を覚えるエピソードがあります。(第2章 第53話「生存闘争遂行」)ここを読むとムタンガの聡明さがうかがわれますが、拳闘にもそれが表れていますね。

※…構えから左ストレートと右ストレートを一呼吸で繰り出す、ボクシングにおける極めて基本的かつ重要な技術。左で相手をぐらつかせ、右でとどめ。左利きの選手なら左右逆。

試合の流れ

「試合はどう進んだんですか?」

 実力伯仲の倒し合いです。互いに三度倒され三度倒し、最終的にセスタスが勝利しましたがムタンガの粘りも驚異的でした。

「決め手は何だったんでしょう?」

 詳しくお話しするのは控えますが、我流ゆえの弱味がキーとなりました。対アブデロス戦を観てザファルが見抜き、そこを突く戦術をセスタスに授けていたのです。

「我流の天才」最大の弱味はな 闘士本人が気づかぬ短所を俯瞰の視点から洗い出し 修正してやれる 「指導者」の不在●●だ!(第2章 第52話「破綻と打開」 傍点は原文のまま、以下同じ)

「それが第6巻でザファルが語っていた、強味の裏の弱味ですね」

 そうです。そして首の後ろ側を打つとどめ技「断頭」でセスタスが勝ったんですが、背面の急所を打つ技なのでいきなり狙ってもそうそう当たりません。この技を決めるためにセスタスが打った布石がまた驚きなんですよ。どちらも現代のボクシングでは反則ですけどね。

ザファルの勝負哲学

 この第7巻を語るとなると、ザファルの勝負哲学を語らないわけにはいきません。試合を見届けて感極まったペドロたちにザファルはこう語ります。

世に言う「努力」とは 「個別の頂上」を極めんと力を尽くす事だと俺は思う 人生は厳しく 不如意で… 試練に満ちた冒険だ 大望を胸に抱くほど 何度も躓くかもしれない 行く手を塞がれて足踏みを強いられ 失意に独り悔し涙を飲む夜もあるだろう(中略)それでも直向きに進めば 辿り着ける「境地」は必ずあるんだ! 在るとしか俺には言えぬ! 上空の景色は 挑んだ者だけにしか知り得ないからだ!(第2章 第57話「個別の頂上へ」)

「何かに挑んだことのある人で、その言葉に胸を打たれない人はいないんじゃないですか?」

 同感です。そしてザファルはこう続けます。

「勝負」の世界では 勝つことで初めて学び取れるもの 勝たなければ永遠に「修得」出来ぬものがあるのだ! 全身全霊 持てる全て●●を捧げ尽くしても勝利を目指せ! どんな苦労も この瞬間に報われるのだからな(同上)

「…『勝ってこそできる生き方がある、勝ってこそなれる自分がある、だからこそ勝て』ということでしょうか」

  私もそうだと思います。ザファルがセスタスたちに「勝て」と言うのは勝ち組信仰のような薄っぺらい理由ではないし、奴隷の身分を脱け出すためだけでもないんですね。

感想

「なにわt4eさんのご感想をお聞かせください」

 とにかく『死闘伝』中で一、二を争う名勝負でしたね。のっけからムタンガがダウンを2度も奪ったかと思うとセスタスも彼の弱点を突いて2度ダウンを奪い返す。特に中盤以降の打ち合いには息を呑みました。突き放されて攻めあぐね気味のセスタスが徐々に接近戦に持ち込む流れやそのための戦術を授けたザファルの切れ者っぷり、不慣れな接近戦のコツをあっという間につかんだムタンガの対応力には圧倒されます。ムタンガの弱点を対アブデロス戦できちんと描いていた技来氏の技量も見事ですね。伏線を非常にさりげなく張り、しかもしっかり回収しています。

 ムタンガについて言えば父の死や豹との闘いも、短いながらずっしりと読み応えのあるエピソードです。「死」の残酷さや厳かさには身が引き締まりましたし、豹との闘いも「どうしてこんなに深く描けるんだ!?」と思いました。

 他に胸に残ったのはゾルバですね。彼は一見強欲ですし、実際それらしい様子はうかがわれるのですが、冷酷な人物ではないことがムタンガの身を案じて叫んだ言葉から感じられます。そして最後はザファルの勝負哲学が全部持って行ってます。

「なにわt4eさんが『人生の教科書』とおっしゃるだけありますね」

 そうなんですよ。だから『セスタス』シリーズを読むのはやめられないんです。なお、続く第8巻の冒頭でもムタンガとゾルバが少し登場しますが、これも名場面ですよ。

「気を持たせないでくださいよ~!」


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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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