先にまとめから
『拳奴死闘伝セスタス』第3巻、いよいよ総勢16名のトーナメント戦が幕を開けました! 強豪たちは何を求めて集結したか? どんな闘いが繰り広げられるのか? 祭典の裏で展開される政治的暗闘とは? セスタスが1回戦で対戦する相手とは?
拳闘アクション漫画としても一級品、人間ドラマや人生論としても一級品の本作をどうぞお楽しみください。
※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、政治資金規正法の問題ってなかなか決着がつきませんね(本記事の執筆時点)」
そうですね。私の意見としては詐欺を取り締まる法律を詐欺師が作ってるようなものだから、それもむべなるかなですが。
「そもそも、パーティーでの資金集めで得たキックバックなんて役得くらいに思ってるんじゃないかという気がします」
そこは当事者に聞かないと分かりませんが、そう思われても文句は言えないとは思います。そう言えば『拳奴死闘伝セスタス』にも政治家が私腹を肥やすエピソードがありますよ。
「本当ですか!? 拳闘マンガですよね!?」
そこも本作のおもしろいところです。
第3巻のあらすじと見どころ
「いったいどんな話なんですか?」
その話が出てくる第3巻の大きな柱は、以下の三つです。
政治的暗闘
時はコンコルディア闘技祭の開幕7日前にさかのぼります。皇帝ネロは現地の総督トレビウスに引退を迫りました。収賄や違法な貸金業で私腹を肥やすトレビウスに対する制裁です。トレビウスも負けておらず「役得」と開き直ったりネロを逆に脅したり、不穏な気配が漂い始めます。
そして闘技祭が始まりました。1回戦の第1試合では優勝候補の一人コルドバのハミルカルと超巨体・超怪力を誇る最北(さいはて)のロキが、続く第2試合ではセスタスとのリターンマッチを目指すエムデンと自分が仕える王のために闘うマレクが対戦します。
ハミルカル対ロキ
現役の集大成として大会に臨むハミルカルはかなりの戦績を誇るヴェテランらしく、「不敗の拳豪」と紹介されます。一方のロキは歩くだけで通路に地響きが起きるほどの巨漢ですが、拳闘技術はかなり未熟。開始早々ハミルカルはためらいなく連打を仕掛けてロキを圧倒しますが、ロキの一撃が試合の流れを完全に変えました。
「どんな一撃ですか?」
それを言っちゃうとネタバレになるんですが…結果だけ言えばロキの圧勝です。
エムデン対マレク
ハミルカル対ロキ戦はあっさり終わりましたが、こちらはかなりじっくり描き込まれています。
まずマレクですが、彼はナバテア王国で王を護衛する近衛隊長でした。この王をマレクは「命を捨てても護るに値する偉人」(第2章 第14話「無頼の牙」)と呼び長年忠義を尽くしていました。しかし王は病を得てもはや余命いくばくもない身、王国の滅びも時間の問題。医師の手すら及ばないと知ったマレクは、王に恩返しを誓って闘技祭に身を投じたのです。
「…そこまで尊敬できる上司に恵まれるとは、少しうらやましいような…」
ははは、同感です。一方のエムデンですが、『拳闘暗黒伝セスタス』でセスタスに敗れたのち銅鉱山に売られていました。そこで絡んできた札付きの先輩7人を返り討ちにした大暴れが拳闘好きな主人の目にとまり、拳闘の道に引き戻されます。
「それが後々闘技祭につながった?」
そうです。ちなみにこの時エムデンのお目付け役を命じられたモンソンという人物ですが、彼もかつてセスタスに敗れた元拳奴です。
「試合はどんな展開だったんですか?」
序盤でマレクの奇襲が功を奏しますが、マレクは生粋の拳闘士ではありませんでした。近衛兵であるだけに専門は剣術だったんです。そこを、拳闘士としてのキャリアが段違いに厚いエムデンにつかれて敗北しました。
ただこのマレクと言う人物、敗れはしたもののその後の描かれ方にとても厚みがあるんですよ。
「どういうことですか?」
試合後、涙を流すマレクはある少年と出会います。その少年は出場拳士ソロンの息子でした。それを知ったマレクは涙の訳を明かし、最後にこんな言葉を交わして彼らは別れました。
「さらばだボウズ 父上が優勝出来ると良いな!」「うんっ ありがとう」(第2章 第16話「敗者の祭典」)
そして技来氏はナレーションとして、ナバテアの旗章をまとい歩き出すマレクの背中にこんな言葉をかけています。
闘士の数だけ戦う理由と胸に秘めた願いがある やがては一人の勝者と十五人の敗者となる男たち 栄冠は一つだけ これは然るべく仕組まれた企画であり 敗者の祭典でもある 敗北し脱落し 夢破れても「人生」は続くのだ 敗者は散らず ただ再起あるのみ 不屈なる「再起者」に祝福あれ(同上、ふりがなは原文のまま)
「『敗者は散らず ただ再起あるのみ』…胸に響きますね。
私もこの一節が大好きです。敗者を決して薄情に扱わないことも『セスタス』シリーズの大きな魅力の一つです。
「大きな柱は先ほどの三つということでしたが、それ以外の話も収録されているんですか?」
はい。二つの試合の後、セスタスの師・ザファルがセスタスに尋ねました。組み合わせ抽選会で見た1回戦の対戦相手・イオタをお前はどう見るか? と。答えに窮するセスタスを叱り飛ばしてザファルはイオタに対する見立てを話します。続いてイオタの予選会を観た大会委員がネロと護衛のドライゼンにイオタの戦いぶりを語るのですが、ザファルの見立ては100%的中していました。
…私は数えきれぬぐらい拳闘試合を見て来ました 退屈な凡戦から胸を打つ熱戦まで しかしながらあの予選ほど 形容し難い試合を観た覚えは全くありません
熱気も迫力も無いまるでスリの名人芸(第2章 第17話 「触れ得ざる亡霊」、傍点は原文のまま)
「え、どんな戦い方なんですか…と聞いても、それを言っちゃうとネタバレなんですよね」
そうなんです。そこはぜひ第4巻でご覧ください。
また開幕前に、第2巻のご紹介で少し触れたアドニスが同僚のルスカとカサンドーラを故郷シラクサに案内するエピソードもあります。アドニスは軽薄なお調子者として描かれることが多く、実際そういうところはありますが、ここを読むと彼なりに人生を真剣に考えていることがうかがわれて興味深かったですね。
感想
「なにわt4eさんが第3巻を読まれて、一番印象的だったのはどんな話でしたか?」
何と言ってもエムデン対マレク戦です。マレクの奇襲に一度は倒れたエムデンの粘りも見事でしたが、恩人の死を惜しみ、かつ少年と対等に言葉を交わすマレクの姿には胸を打たれました。マレクのその後は描かれていませんが、できることなら彼の再起を見届けたい思いです。
「…キャラクターの再起を見届けたいと思わせるなんて、『拳奴死闘伝セスタス』がそうとうの名作という証拠なんじゃないですか?」
さすが美濃さん、よくお分かりですね! ご紹介して本当によかったですよ!
なおこの少年、第9巻のエムデン対ソロン戦の後にも登場します。さりげなく彼の成長が描かれている点も素晴らしいですね。
ネロとトレビウスの会談後、ドライゼンがネロにこう言葉をかけます。
最後に何を言われたか知りませんが 悪党に耳を貸す必要はありません ためらわず正義を断行なさい! 善政の基本は公正の厳守なのですから(第2章 第8話「密談」)
ドライゼンは皇帝ネロとその家族を護衛する、徒手格闘兵団・衛帝隊の副長です。こう言っては何ですが、直接契約を結ぶほど信頼されているとは言え一介のボディガードであるドライゼンが当時神様扱いされていた皇帝に本当にこんなこと言えるの? と疑問を感じなくはないですが、そもそも衛帝隊は架空の組織ですからこれは野暮な疑問でしょう。
「拳闘アクション、人間ドラマ、政治的暗闘…お話を聞けば聞くほど、様々な魅力を持った作品だと感じます」
おっしゃる通りです。休載は多いわ話はなかなか進まないわ、とにかく待たされるんですが待つ甲斐がある、ファン泣かせの名作なんですよ。
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