『ここは今から倫理です』第8巻(雨瀬シオリ)「市井せんせ優しかった」


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(今回はいつもと反対に、架空の人物・美濃達夫さんが本書をご紹介くださいます)

「なにわt4eさん、読みましたよ。『ここは今から倫理です』の8巻!」

 もう出てたんですか? いやそれもあるけど、お読みになったんですか?

「ええ。前になにわt4eさんから7巻の事を聞いて、おもしろそうだとは思ってたんです。昨日ラーメン屋で油そば食った帰りに本屋さんをのぞいてみたら8巻が出てたので買いました」

目次

どんな話が収録されてますか?

 ・いろいろな人と仲良くするのが好きだけど、そのために時折り誤解される生徒の話
 ・優等生的な自分に誇りを抱いている生徒の話
 ・宗教2世である生徒の話
 ・高柳を含む先生同士の飲み会
 ・援助交際をする生徒の話
 ・自分の容姿に劣等感を持つ生徒の話

「という具合で、7巻みたいに前後編に分かれたような話はありません。ただ複数の話に登場する生徒がいて、キーパーソンと言ったら大げさですがおもしろいです」

 その生徒はどんな役割を果たしているんですか?

「最初はほんのチョイ役ですが、飲み会の話では店を出た高柳たちと繁華街で鉢合わせしたり援助交際の話でメインだったり、少しずつ存在が大きくなっていきます」

 ある種の伏線みたいな人物ですね。

「伏線って何ですか?」

 序盤や中盤に少し出てきた人物とか出来事とかが、後半で大きな意味を持つことです。その大きな意味が明らかになることを「伏線が回収される」と言って、特にミステリでは重要視されています。

特に印象深かったのはどんな話ですか?

「宗教2世の話『信じること』と、援助交際する生徒の話『滅びるように生きる』です」

 ネタバレにならない範囲で、どんな話か教えてください。

「『信じること』には、新興宗教を信じている母親とメンタルが不安定な恋人の二人に振り回され気味な生徒・長野(ちょうの)が登場します。彼は母親の宗教を嫌いではなく、恋人も大切にしようとはしていますが、何となく心がすっきりしません。あるとき彼は図書室で、授業の準備として宗教書を読んでいる高柳と出くわします。それで長野は宗教について高柳と話して…という話です。長野はここでユダヤ教にちょっと興味を示すんですが、なにわt4eさんはユダヤ教についてご存知ですか?」

 興味はあるし多少知ってますが、詳しくはありません。昔、ユダヤ教に改宗した日本人が書いた『日本人の知らないユダヤ人』(←Amazonの紹介ページへ飛びます)を読んだことがありますが、それによるとユダヤ教への改宗は非常にハードルが高いようです。

「そうなんですか。最後、長野が漏らす独白に、私は宗教って本来このためにあるもんじゃないかと思いました」

 その独白、気になりますね。もう一つの話は?

「援助交際をしている生徒・国近の話です。国近には援助交際仲間、仲間と言っていいのかどうか分かりませんが、とにかく仲間のような知人がいて、その知人はかなりすさんだ家庭環境にあります。一方、国近の家庭については詳しく描かれていませんが、比較的平穏な家庭のように見えました。ただ国近は虚無的と言うか醒めてますね。退屈しのぎと小遣い稼ぎで援助交際をしているように見えます。もっとも、酔って具合が悪くなった高柳のそばにいてやったり高柳の先輩教師・市井にかわいがられて照れたりと、感受性豊かな一面もあります。あ、かわいがると言っても市井は中年女性で、娘を見るようにかわいがるという意味です」

この作品にはよく哲学者などの名言が紹介されていますが、美濃さんの印象に残った名言はありますか?

アリストテレスは言いました 「友は第2の自己である」と(P.31~32)

「平江というにぎやかな生徒が、いつも友達がいてくれたから大丈夫だったと言うのに対して高柳が返したこの言葉です。いわゆる『類は友を呼ぶ』のことでしょうけど、名言自体より高柳が平江にこの言葉を返した思いやりの方が胸に響きました。それ以外では、哲学者の名言より登場人物のセリフで印象に残るものが多かったですね」

 例えば?

宗教は本来…人を苦しめるものではないのだから(P.99)
イケメンでもこじらせることあるんだな…(P.206)

「前者は高柳が長野に言った言葉ですが、前になにわt4eさんが紹介してくださった『神様のいる家で育ちました』(←当ブログの紹介記事へ飛びます)を思い出しました。後者は自分の容姿に劣等感を抱く生徒・鈴木が高柳と言葉を交わした後に考えたことです。二人の会話は今一つかみ合ってなくて、首をかしげながら別れる高柳がおもしろかったです」

美濃さんのご感想は?

「もちろん作品全体がおもしろかったんですが、もう少し細かいところで言えば、例えば長野の回で高柳が授業で話す内容が興味深いです」

 とおっしゃいますと?

「神話から哲学が生まれる過程を、高柳はこう話します」

神々の超自然的な力や思わく(原文ママ)によって「世界」は作られていると考えていました やがて人間は人間の思考能力…理性(ロゴス)を持っていて 「世界」「人間」を作りだしているのは人間のロゴスなのではないか? と気付き 合理的に論理的に世界を考え直そうとし始めた これが「哲学」の始まりです(P.73)
そうなると各自の個人的な判断まで絶対視され始め…(中略)一人一人が自己中心的に振るまう様になった(P.74)

「まるで人間の成長過程みたいな気がしませんか?」

 本当ですね。自分の親を絶対的な存在だと思っている幼少時代、少しずつ自分でものを考えるようになる少年少女時代、それが高じて時にうぬぼれる思春期…よく似てますね。

「私もそう思ったんです。それと、この授業で何人かの生徒が居眠りしていて、高柳が自分の教科書をバンバン叩いて起こすんです。これは身につまされました」

 ははは、私もよく起こされましたよ。

「『滅びるように生きる』ではネットで知り合った子が援助交際をしていると話す国近に、市井はそれが国近自身のことと知ってか知らずか、とても思いやり深く接します。自分だったらどうだろう、市井みたいにできるだろうか、頭ごなしに叱りつけるだろうか、当たり障りのないことを言って身をかわそうとするだろうか…としばらく考えこみました」

 とは言え、「いずれやめてくれるだろう」ですませることもできませんよね。どんな危険な目に遭うか分からないし…。

「私もそう思います。そういう意味でも考えこんでしまいました。こういう時どうしてやればいいんだろう、と」

まとめ

「高柳とのかかわりを経て変わった生徒もいれば変わらない生徒もいます。変わりたいと願い始める生徒、変わるかもしれない生徒もいます。若者のそうした変化や成長を見られるのも『ここは今から倫理です』の魅力ですね。あと、高柳のやってることってカウンセリングとしてもかなり望ましいんじゃないでしょうか。生徒のあり方を否定せず、むやみに上に立とうともせず、あるがまま同士で一緒に考えながら成長を促しているんですから。娯楽としても、我が身を振り返る機会としても、読んで本当によかったです」

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この記事を書いた人

名もなき大阪人、主食は本とマンガとロックです。

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