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先にまとめから
中東情勢とは切り離して考えることができない、だけど実際のところあまりよく知らないユダヤ教。日本人にとっては、もしかするとキリスト教やイスラム教以上に謎の信仰かもしれません。でももし、日本人からユダヤ教徒、つまりユダヤ人になった人がいるとしたら…? 本書はユダヤ教に改宗した日本人弁護士がつづった改宗体験記であり、ユダヤ教の分かりやすい入門書です。
・毎日に何となく行き詰まりを感じている人
・未体験ゾーンをのぞいてみたい人
・いつもと違う考え方を探している人
この本は、そんなあなたのお役に立てる一冊です。
美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、ウクライナ戦争もですがイスラエルとハマスの武力衝突、ないし戦争も終わりがまるで見えませんね」
本当ですね。戦闘の一時停止はあったものの本格的な停戦や話し合いには至ってませんよね。
「それだけの歴史や背景があるからでしょうけど…中東情勢については取引先の方もわかりやすい入門書を探しておられるのですが、どれを読んだらいいのか見当もつかないとおっしゃってました」
そうでしょうね、私こそ教えていただきたいくらいです。背景の一部分の、そのまた一部分として、ユダヤ教の入門書なら心当たりがないでもありませんが…。
「何という本ですか?」
石角完爾『日本人の知らないユダヤ人』です。
「どんな本ですか?」
日本人の国際弁護士・石角完爾氏が50歳を過ぎてユダヤ教と出会い60歳で改宗した体験、そしてユダヤ教の教えるところを解説した本です。ユダヤ教の解説書やユダヤの格言・ジョークをまとめた本は数多くありますが、ユダヤ教への改宗体験を詳しく書いた本という点で類がありません。
「著者はどうしてユダヤ教に改宗したんですか?」
著者はハーバード大学とペンシルバニア大学のロースクールで学びましたが、たまたま周囲の学生や教官のほとんどがユダヤ人だったんです。彼らの活躍を見てユダヤ人とは何なのかと関心を持ち、本を読んだりニューヨークのシナゴーグ、つまりユダヤ教徒の礼拝所で学んだりを続けました。そうした知的好奇心に加え、無我夢中で働いて体を壊し仕事をセーブしたことで内面的な飢えを感じるようになったことも理由だと述べています。
ちょうどこのとき私の心の中にあった、三つの問題にユダヤ教は回答を示したためでした。それは「自分の生きる意味」「大きなものに帰属したいという感覚」そして「世界の人々と同じ場に立ちたい」というものでした。(P.39)
「日本人がユダヤ教徒になるなんてかなりまれだと思いますが、さぞ歓迎されたでしょうね」
それがですね、門前払いとまでは言わないもののかなり消極的な反応でした。とても大ざっぱに言うと、
「まずは勉強して来なさい」
「ではいい本を教えてくれ」
「そんなことも調べる気がないのでは話にならない」(プイッ)
という具合だったようです。(P.24~27)
「ずいぶんな塩対応ですね。それはまたどうして?」
改宗したいなら膨大な勉強をしなければならないと考えているからです。
ノア(引用者注:ラバイと呼ばれるユダヤ教の聖職者で、著者にユダヤ教を教えた人物):ユダヤ教は改宗者アブラハムにより始まった宗教だ。(中略)だからこそ改宗者は注目される。そのためには生まれながらのユダヤ人からも尊敬されるくらいのレベルまで、ユダヤのことを勉強しなくてはいけない。(P.51)
ユダヤ教徒になることは「自由意思による自主的な選択である」とするために、改宗の試練も当然と考えるのでしょう。(P.52)
ユダヤ教には「人間は自分の意志で神に従う。神はその人間を繁栄させる。これは人間と神との契約だ」という考え方があります。これは私の解釈なんですが、信仰は人生を左右する大きな契約なのに、それを交わすにあたって契約書を読まないバカは相手にできない、という発想なのではないでしょうか。
「なるほど。で、著者は勉強した?」
ええ。律法や歴史などを5年間みっちり学び、対面の問答による試験に合格して改宗を認められました。詳細は割愛しますが、この経緯もとてもおもしろかったです。
「そもそもユダヤ教とはどんな宗教なんでしょう?」
私の思うにはですが、以下の3つがポイントです。
・ユダヤ教は〇〇の宗教
・問い続けろ
・戒律
ユダヤ教は〇〇の宗教
キリスト教は愛の宗教、仏教は真理の宗教と呼ばれます。著者はユダヤ教をこう表現します。
ユダヤ教は戒律と自制の宗教と言われます。(P.156)
私個人としてはこの本で読む限り、ユダヤ教は問いかけの宗教だなと感じました。
問い続けろ
「問いかけの宗教?」
はい。
「ユダヤ教の神髄を一言で説明すれば何事にも疑問を持つことだ。つまり問い続けることだ」と、ラバイのヘンリー・ノアさんは言います。(P.58)
それは日常生活や社会問題などにとどまりません。自分たちが信仰するユダヤ教についてすら、「この戒律はなぜ定められているのか」「現代の〇〇は戒律に照らし合わせるとどうなのか」、さらには「神は何故〇〇するのか」「神の意思は何なのか」といったことにも及びます。とにかく何でも問いかけ、考え、議論するんです。
「…それはユダヤ人が迫害を受け続けてきたことと関係があるんでしょうか?」
と、おっしゃいますと?
「土地や財産を奪われても考えたり議論したりすることはできる。金は奪えても受けた教育は奪えない。だから問いかけ、疑問を持つことを重視するようになったのかも、と考えたんです。決して奪われない財産として」
なるほど、そういう側面もあるかもしれませんね。さすが美濃さん、いつもながら鋭いご質問です。
戒律
「ユダヤ教ってたくさん戒律があるんですよね? 豚を食っちゃいけないとか、安息日には働いちゃいけないとか。部外者の目にはとても面倒くさく映るんですが、それこそ何故そんな戒律があるんでしょうか?」
そう思いますよね。豚に限らず食べてはいけないものとか、安息日にしてはいけないこととか、これこれをする前とした後には必ず手を洗えとか。著者はこれを、生活をシンプルにするためと言います。
ユダヤ人は複雑な宗教上の戒律で、自分の人生をがんじがらめにします。すると気づかないうちに人生で付け加わった必要のないものがそぎ落とされていくのです。過度な栄養とおいしさを持つ美食、無駄な娯楽、人に対する怒りや妬みなどの悪い感情、浪費、快楽だけを目的にした性交渉、怠惰な時間など、現代人が身につけてしまう悪徳と言えるものが減っていきます。(中略)逆説的ですが、複雑なユダヤ教の束縛が、ユダヤ人の人生をシンプルにしていきます。(P.156、フリガナは原文のまま)
また食物の規定や安息日の規定には健康上大きな意味があるとも著者は述べます。例えば貝類、あるいは食物連鎖の上位にいるマグロなどの大型魚を食べないことで重金属汚染を避けられるとか、安息日によって心身の健康を維持できるとか。(P.136~148)
ただ一言お断りしておきますと、ユダヤ教にもいくつかの教派があります。こうした昔ながらの戒律を一字一句ゆるがせにせず守る教派、現代にふさわしい解釈を模索・実践する教派、そもそも戒律にあまりこだわらない教派など。
「よくユダヤ式発想などと聞きますが、それはどんなものなんでしょうね?」
詳しく述べだすときりがないし、私もうまくまとめる自信がありませんのでこれは目次を拾うにとどめます。
・世の中に確実なことは何もない
・あきらめとは無縁のユダヤ人
・現実を見つめ、堅実に行動する
・異質なものを進んで受け入れる
・リスクに敏感で代替策を持つ
「なにわt4eさんのご感想をお聞かせください」
正直に言うと、ツッコミどころはいくつもありました。例えば処女との結婚式は水曜日でなければならないという戒律について著者は、詳細は割愛しますがユダヤ教は女性に優しい宗教なので女性を保護するために水曜日に決められたのだという持論を述べています(P.90~92)。しかし本当にユダヤ教が女性に優しい宗教なら、何故たかだか処女か否かということを問題にするのか、姦通した女性は石打ちの死刑なのに(新約聖書 ヨハネによる福音書 第1章 1節~11節)男性になぜ同じ規定がないのか、それが疑問です。
また少し触れた食物規定についても、現代の重金属汚染を本当に神が予見していたのか、仮に予見していたならなぜそれを防ぐ戒律を定めなかったのか。
ユダヤ教は強く信じ切ってしまうことをいさめると著者は述べますが(P.60、P.171)、イスラエルの元首相イツハク・ラビンを暗殺したのは狂信的ユダヤ教徒でした。
とは言え、刺激や参考になるところも大変多かったです。異質なものを受け入れる代わりに自分もしっかり主張する(P.184~187)とか、競争して勝つ努力ではなく競争しない状況を作る努力をする(P.190)とか。
強く心に残ったのは、改宗にあたっての最終試験となる問答でラバイから「ユダヤ人への差別や迫害はなくならない。はっきり言えば、ハイジャックか何かにあって『ユダヤ人から殺す。ユダヤ人は手を挙げろ』と迫られたら君はどうするのか、ということだ。君は手を挙げるのか?」と尋ねられた時の、著者の回答です。どんな回答だったか、ここでは伏せますがとても誠実な回答だと思いました(P.109~112)。
これ一冊読めば中東情勢はバッチリという本ではありませんが、背景の一部分のそのまた一部分くらいは理解できるでしょうし、単に知的好奇心だけで読んでも大変おもしろい本だと思います。
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