先にまとめから~あなたの「闘う理由」は何ですか?~
毎日闘っているのは格闘技をしている人だけではありませんよね。仕事や受験、家事や育児、あるいは病気やけがの治療だってれっきとした闘いです。
ではあなたは何のために闘ってますか? 愛する家族? 自分の将来? 誇り? 社員の生活?
『はっちぽっちぱんち』第6巻では、選手一人一人の「闘う理由」「背負うもの」がさらにクローズアップされ、彼女らの命を削る闘いが描かれます。そして人生の闘いに日々命を削るあなたに、『はっちぽっちぱんち』第6巻は熱い声援を送っています。あなたと一緒に闘うよ、と。
そんな心強いパートナーの胸の内、一緒に聞いてみませんか?
こんな方には特におすすめします。
・人生そのものが闘いだと思う方
・「折れない心」を見たい方
・ちょっぴり歪んだ友情も見たい方
※極力ネタバレしないように書いておりますが、試合結果という意味でのネタバレは避けられません。ネタバレを避けたい方はご注意ください。
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美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
美濃さん、ボクササイズの調子はどうですか?
「ずっと楽しく続けてますよ。本式のボクシングと違って当てることはありませんが、筋トレとは違う緊張感がありますね」
対人競技ならではでしょうね。
「先日はスウェイ(※)がうまくできて、インストラクターにほめられましたよ」
へえ、それはすごい!
「ただ調子に乗ってスウェイばかりで避けてたら、スウェイした拍子にボディを打たれちゃいました。もちろん寸止めですが」
あ、そのテクニックは『はっちぽっちぱんち』第6巻でも紹介されてましたよ。
「そうなんですか!? そう言えば第6巻のお話しはまだお聞きしてませんでしたね」
そうでしたね、ではお話ししましょう。
「お願いします」
※…顔面へのパンチをのけぞって避けるテクニック。
あらすじ
美夜対希歩戦は美夜の勝利に終わりました。そこへNANAの元で訓練を続けていたレミが帰還、急遽太田レイムと闘って合宿への帰還が認められました。
その次の試合は天田ニーナ対荒井麗。初めはシュートボクシング仕込みの幅広い戦術で麗がニーナを翻弄しますが、最終的には総合格闘技の技術をキックボクシング向けにアジャスト(適応)させたニーナが勝利し、麗は脱落しました。
そしてらぶと綺、REINA CHILDRENの最上位にいる2人の試合が始まりました。ここでらぶが闘う理由が明かされます。楽しかった日々に決別し、REINAに「ここで負けたら自分を即退場にしてほしい」と宣言したらぶはすさまじい気迫で綺を追い詰め…。
なぜ闘う?
「らぶの闘う理由って何ですか?」
家族を守ること、です。彼女はタイの貧困地域出身であるらしく、彼女自身も、また彼女の幼い兄弟たちも──兄弟ではなく近隣の子どもかもしれませんが、彼女は「家族」と呼んでいます──ムエタイ戦士として出世するか、観光客のガイドをするか、彼らに体を売るかくらいしか食っていくすべがありません。そんな兄弟にらぶは自活の術(すべ)としてムエタイを教えていました。そして、詳しい経緯は省きますが、彼らを養う金を稼ぐべくREINAのもとに来たのです。
楽しかった 日本で同世代の子たちと一緒に生活し共に強さを求める日々 でも 楽しい日々はもう終わりでいい わたしはらぶ らぶ・ゴータイガージム 故郷の家族を守るために 闘う戦士!!(第52話「限界の先」)
にこやかな場面が多かったらぶが戦士の顔になって綺を追い詰める場面には、鬼気迫るものがありますよ。
そして闘う理由と言えばもう1人、興味深い人物がいます。
「誰ですか?」
麗です。彼女の闘いには、何かを手に入れたいとか頂点に立ちたいとか、そう言う具体的な理由はありませんでした。
「それではなぜ?」
人から奪うためです。とりわけ綺から。麗は相当な資産家のもとに生まれたようで、何不自由ないどころかあらゆるものを与えられて育っていました。そんな彼女はあるきっかけで人から大切なものを奪う快感に目覚めてしまい、そのために闘っています。
「ずいぶんな根性悪ですね」
とは言え、麗はある意味で非常に憐れな人物かもしれません。
「と、おっしゃいますと?」
彼女には、自分の欲しいものが何もないんですよ。少なくとも、あるようには見えない。私には、麗が「自分が目指す自分を、自分で決める機会を奪われ続けた人間」に思えるんです。
「だから、人から奪うことで穴埋めをしようとしている?」
私の思うには、ですけどね。
「らぶは家族を守るため、麗は人から奪うため…それが彼女らの闘う理由ですか」
そしてレミは希歩を守るため、ニーナは総合格闘家の頂点に立つため。彼女らは様々な理由で闘っています。
「そう言えばよく言いますね、人生そのものが闘いだと」
そっちの闘いも、闘う理由は人によって様々ですよね。家族とか、夢とか、従業員の生活とか。この巻を読んで、我知らずそれを見つめ直す方もおられるんじゃないでしょうか。
闘いの背後にある人間模様
歪んだ友情
第6巻の人間模様で、私が一番興味を感じるのは綺と麗です。2人がともに7歳の時、先にシュートボクシングを始めた麗が通うジムにREINAが綺を連れてきました。麗は綺とスパーリングして勝ちますが、このことで大人たちが一斉に麗に注目します。その時に麗は気づいてしまったんです。
「何にですか?」
親が全てを手に入れてくれる退屈と、人から奪う快感に。それ以来麗は練習の度に綺を負かしますが、綺の心は折れませんでした。
綺は折れなかった 学業で 恋愛で 格闘技で ありとあらゆるものを奪い続けても折れない綺は いつの間にか 女子格闘技の世界を駆け上がっていた(第47話「綺と麗」)
「皮肉と言うか何と言うか、結局麗は綺から何一つ奪えてないのでは?」
おっしゃる通りです。しかも、学業や格闘技はまだしも恋愛となると、人から奪うために達成したところで心から満足できるものでもないでしょう。
「だから先ほどおっしゃったわけですか、麗は非常に憐れな人物かもしれないと」
はい。ただ彼女がそこまで「綺から奪う」ことに執着したのは、綺の友人であり続けるためでした。そんな歪んだ方法しか思いつかない麗には、いくらか同情を感じます。綺がそんな麗を受け止め続けていることは、麗にとって救いでしょうね。
帰ってきたレミ
もう1人はやはりレミです。NANAのもとで訓練を積んだレミはRMAWSの選手選抜合宿に帰還しました。主催者であるREINAははじめレミに、狂気で盛り上げるRMAWSにお前は必要ないと告げますが、NANAの後押しで急遽太田レイムとの試合が組まれます。テクニシャンの姉アリスに対して妹レイムはパワーで押しますが、レミは彼女が目指した「攻撃をガードしつつプレッシャーをかけ、強烈な一撃を見舞う」ファイトスタイルをすでに確立していました。
ここで見られるレミは、格闘家としてはもとより人間としてもステージを1段上がったレミだと思います。
「どういうことですか?」
こんな試合を繰り返せばアイツは(引用者注:希歩のこと)プロになる前に死にますよ……本当にそれが REINA様の求める女子格闘技なんですか?(第44話「帰還」)
憧れの的だったREINAにこう疑問を突きつけるレミには、迷いも気負いもありません。希歩を守るため、自分が自分であるためにREINAに立ちはだかるレミは静かで、しかし決然としています。そんなレミを見て私は、「ものすごく芯が強くなった」と感じました。
「格闘家としての自分に手ごたえを感じたが故の変化かもしれませんね」
ええ、そういう面は間違いなくあると思います。
戦士(ナックモエ)らぶ
らぶについては、綺との試合中に希歩や美夜たちと仲良く強さを追求した、楽しかった日々を回想しつつ戦士としての決意を新たにする描写も心に残りますが、試合が終わって合宿を去る時の坂本とのやり取りも印象的です。
「タイに戻ったんですか?」
はっきりとは描かれてませんが、たぶん違います。坂本が「おばちゃんはアメくれる」(第53話「起源」)と言っているので、ある程度の想像はつきますね。
「ああ…(笑)」
で、坂本はらぶとの別れ際に
私はREINAさんの右腕という自負がある だからREINAさんが決めた以上…君の肩を持つことはできない でも… 何かあったらすぐ連絡してくれ(同上)
と言っています。こういうところにも、ボスに忠実だがイエスマンではない坂本の人柄が表れていますね。短い場面ですがそんな坂本と、らぶの屈託のない、そしてあくまでも前に進もうとする笑顔が魅力的な場面です。
狂気の背景(バックボーン)
希歩の狂気はとどまるところを知らず、対美夜戦でダブルノックダウンの後も立ち上がって戦意を示すわリングドクターすらこれ以上は見過ごせないと漏らすわです。そして巻の末尾で、レミが希歩の母親・歩美を訪ねます。
このままだといつかケガでは済まない事故が起きる… そうなる前に止めたいんです 女子格闘技のためにもキホ自身のためにも…! だから…もっと知りたいんです…キホのこと なんであんなに殴ることに執着しているのか 何がキホをそうさせるのか(第53話「起源」)
ここではまだ詳しく描かれてませんが、希歩の父親・濱野隆大(はまのたかひろ・格闘技プロモーター)が「希歩は俺がそうなるように育てた」(第53話「起源」)とREINAに話しています。また希歩自身も、ニーナと練習しつつ「初めてここに来た時 なんか懐かしい感じがしたんだよね」(同上)と語っているので、何かしらリングに縁があったのかもしれません。
「どんなきっかけだったにしろ、相当根深いみたいですね」
ええ。そのあたりは第7巻で描かれると思うので、楽しみにしましょう。
感想
「なにわt4eさんの感想をお聞かせください」
やはり一番印象深いのは麗と綺ですね。麗は綺から奪い続けましたが、綺は決して折れなかった。そしていつの間にか麗をはるかに追い抜いていた。それも、恐らく追い抜こうなどと思っていなかったにもかかわらず。麗の生き方は皮肉な結果を生みましたが、綺はそんな麗の友人であり続けた。分かっていたんでしょうね、麗にとってはそれが綺の友人であり続ける唯一の方法だったのだと。これから2人がどう向き合うのかは不明ですが、できれば見守ってみたいと思いました。
そしてレミの変化も見逃せません。REINAと対峙した時の静かな力強さもですが、対太田レイム戦での表情も瞠目すべきです。もちろん迫力や緊張感はあるものの、これまで見られた焦りや不安はない。先輩であり世界王者のNANAが「正統な強者」(第46話「麗対ニーナ」)と呼んだだけあって、様々な意味で一段上に進んだことが見て取れます。レミと、本作の新たな魅力を見た思いでしたね。
最後はもちろん、希歩の狂気の源泉がどこにあるか、という問題です。美濃さんもそうだと思いますが、読者としては散々気を持たされたことなので、第7巻を楽しみにしましょう。
「ええ、その時はぜひまた詳しくお聞かせください」
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・『空手バカ一代』原作:梶原一騎 漫画:つのだじろう、影丸譲也
格闘技マンガと言えばこれは絶対外せません。リアルタイム・後追いあわせて、本書で空手を始めた人がどれだけいることか。創作もだいぶ混じってるそうですが、それでもたった一人で全世界の格闘技地図を塗り替えた、ある意味では全人類の運命すら変えた大山倍達氏の偉業を実感するには格好の作品でしょう。
・『ホーリーランド』森恒二
これはフィクション。路上のケンカがテーマですが、それを軸に若者の成長をしっかり描き込んでいて格闘理論も確かなので、私のようにヤンキー漫画に興味が無い人も楽しめます。
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