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先にまとめから
いろいろな「喪う」があり、いろいろな「弔う」がある──。
大切な誰かを喪った人と想いを分かち合う喫茶店「こかげ」。今日もここにはさまざまな人が集まり、自らの喪失に向き合います。家族の介護を続けた男性、中途障害者の少女、推しを喪った女性、そして千景とテルの出会い…悲しみも淋しさも消してはくれない、でも「あなたはひとりじゃないよ」と伝えてくれる一口を、あなたも召し上がってみませんか?
美濃達夫さんとの会話
(架空の人物・美濃達夫さんに本書をご紹介する、という設定で書いております)
「なにわt4eさん、少し前に『木暮姉弟のとむらい喫茶』の1巻(←本ブログの紹介ページへ飛びます)を紹介してくださいましたよね」
ええ。
「実は取引先の方が先日お身内の法事だったそうで、その話をしている時に『木暮姉弟の~』をご紹介したんです。私も読んで、とてもおもしろいと思ったので」
そうだったんですか。
「で、読んでくださったそうです。『地味だけど心に残る作品だった、特にチョコレートサンデーとたまごサンドの話が印象深かった』とおっしゃってましたよ」
それは嬉しいですね! あの作品、最近第2巻が出たんです。
「もう読まれましたか?」
もちろん!
さまざまな「さよなら」
「2巻はどんな話が収録されてますか?」
・長年母の介護を続けたカレー好きの男性、田中哲彦。母のカレーをめぐる、彼の複雑な想いとは? 「脇役のカレーライス」
・病気で右足を喪った女子高生・白川メグミは無意識のうちに身投げを図っていた。それを止めた同い年の男子学生・水瀬澪は生まれつき下肢が不自由な車いすユーザー。彼との出会いでメグミは自分の喪失を直視する。「始まりのブラックコーヒー」
・偶然見た子ども番組でミノルお兄さんこと俳優・高梨稔に励まされ、引きこもりからの脱出を決意した木下柚葉。その矢先に稔が死亡、彼が残したメモは嘘だらけの自分を告白するものだった…「偽りの苺ショート」
・幼いころのテルと千景の出会い。テルはネグレクト(育児放棄)されていた。彼と出会い家に呼んだ千景はシングルマザーの家庭育ち。仕事熱心で愛情深い母・実果(みか)はテルの食事も面倒を見始めたが、病で余命わずかだった。やがて母を喪いテルも児童養護施設に入り、街角で眠り込んだ千景に喫茶店の老マスターが声をかける。「命のクリームシチュー(前・後編)」
実は2巻には、時々形を変えつつも繰り返されるフレーズがあるんですよ。
「それは何ですか?」
「あなたはひとりじゃないよ」
です。例えば「始まりのブラックコーヒー」では、右足を喪ったメグミに澪がブラックコーヒーをおごりつつ
喪ったものは取り戻せないし 俺はきみの苦しみに対して無力だけど ひとりにはしない
と言ってメグミの右足を弔います。「偽りの苺ショート」では稔の訃報に触れて、またこれまで自分が稔だと信じていたものが実は嘘だらけだったことを知って再び引きこもってしまった柚葉を千景とテルが見舞うのですが、テルの言葉に触れた柚葉の独白はこうです。
…お兄さん 私と同じで 生きるのがうまくなかったのかな だからこそ きっと 「きみはひとりじゃないよ」 その言葉が私まで届いたんだ
そして柚葉は再び外に出て、「こかげ」で稔が好物だと言う苺のショートケーキを食べて彼を弔いました。
「つまり『あなたはひとりじゃないよ』が第2巻の、あるいは作品全体のテーマだと?」
まんざら無理な解釈ではないと思います。事実、千景もテルも誰か・何かを喪った人と想いを分かち合おうとしているわけですから。
また、「命のクリームシチュー」では実果の死後、テルが千景に泣いてすがりながら
お姉ちゃんまで いなくならないで
と言っているんですが、これも裏を返せば「お姉ちゃんには僕がいるよ」と聞こえませんか?
「…確かに、自分が千景のそばにいる決意がなければ出てこない言葉かもしれませんね。その決意がないなら、テルもその場を去ればいいだけですから」
私もそう思うんです。そしてメグミと澪、柚葉と稔、千景とテルはそれぞれ同じとは言えないものの似た立場にいました。中途障害者のメグミに対し、生まれつき下肢が不自由な澪。長年引きこもりだった柚葉に対し、嘘を並べ立ててやっと子ども番組の仕事を手に入れたものの実は子どもが苦手で、酒とギャンブルにのめり込んでいた稔。シングルマザーの家庭で育ちその母親を喪った千景に対し、シングルファーザーの家庭でネグレクトを受けていたテル。
「…だからこそ『ひとりじゃないよ』の言葉が響いたんでしょうか」
そんな気がします。弔いの物語は、必然的に共感の物語になるのかもしれませんね。
「共感なしに、ともに誰かを弔うことなんてできませんもんね。そう言えば『こかげ』という店名も共感をイメージさせませんか?」
どういうことですか?
「悲しさや淋しさで泣きたい時に安心してもたれて泣いていられる木、その陰に身を寄せていられる木。そんな店でありたいという千景とテルの願いが『こかげ』という店名に込められているような気がしたんです。作者の意図は分かりませんけど」
あ、なるほど! 確かにそういうイメージが「こかげ」という言葉にはありますね。
感想
「なにわt4eさんは第2巻を読んでどう思われましたか?」
一番インパクトが強いと感じたのは「始まりのブラックコーヒー」です。弔いとは死者だけに対するものではないんだな、という発見でした。
この話でもう一つおもしろいと思ったのは、メグミの変化です。制服に合わせてかもしれませんが、前半のメグミは義足の骨組みやジョイント部分を隠して義足とは分からないようにしていました。一方、後半のメグミはキュロットスカートをはいた上に義足の骨組みも露出させてます。この変化が、自分の右足を澪・千景・テルと一緒に弔ったことで強がったり隠したりする必要がなくなったというメグミの心の現れみたいで興味深かったです。
「偽りの苺ショート」で稔は自分の嘘を暴露するメモ、つまり真実を書き連ねたメモの中で一つだけ嘘をついているんです。
「嘘を告白するメモなのに、そこでまた嘘を?」
ええ、ただし思いやりとプロ意識にあふれた嘘を。これも心に残りました。他にも「命のクリームシチュー」で千景がテルの父親に怒りを叩きつける場面やいつかテルを再び迎える決意を固める場面、「脇役のカレーライス」で描かれた哲彦の複雑な想いも読みどころですよ。
「2巻もおもしろそうですね、次の休みに本屋さんで探してみます」
おすすめします。
(それにしても千景って、髪を下ろしてる時とアップにしてる時でけっこうキャラが違っているような…雰囲気が違うからそう見えるのかな?)
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